映画 この世界に残されて 強制収容所で生き残った男と女 淡い官能で描く再生への通過点=勝田友巳
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ホロコーストの生き残りを描いたハンガリー映画だが、ナチスも収容所も、映像はおろか言葉としても出てこない。深い絶望の中にいた二つの魂が再生するまでの、普遍的な物語だ。
42歳のアルドと16歳のクララは、産婦人科医と患者として登場する。アルドはぶっきらぼう、クララは不機嫌そうだ。服装も部屋の内装もくすんだ色合いで、登場人物の表情は乏しい。映画はよそよそしく冷たい画面から始まり、観客は少しずつアルドとクララのことを知ってゆく。
ある日クララは、アルドの診察が終わるのを待っていて、アルドの部屋に招かれる。クララは優秀だが周囲になじめない。大叔母と2人暮らしだが、教養のない叔母に不満を感じている。両親への投函(とうかん)されない手紙を書きため、帰りを待ち続けている。アルドもまた、人とのつながりを断ってひっそりと生きていた。荒れた時期もあったらしい。やがてアルドは、クララを引き取って一緒に暮らし始める。
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週刊エコノミスト
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