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海外出版事情 アメリカ トランプ時代の軍事タカ派、その英雄像とは?=冷泉彰彦

 アメリカの歳末商戦では、紙版の本がギフト目的としてよく売れる。ここ数年はミッシェル・オバマ夫人の自伝が圧倒的な人気だが、今年はオバマ前大統領自身の回顧録も発売され、夫妻でベストセラーのランキングを席巻している格好だ。一方で、保守系のギフト本として目玉となっているのが、ピート・ヘグセスの『現代の戦士、真の勇者による真実のストーリー』である。11月24日に発売されると、アマゾンの「最も売れた本」のランキングで2位から4位をキープ、12月上旬には品切れとなり、売れすぎてクリスマス商戦から脱落するほどの人気である。

 内容は、21世紀になってからのアフガンやイラクでの戦争、あるいはアルカイダやISとの戦いで戦功を挙げた15人の軍人など、現在40代以下の世代を中心とした「現代の戦士」像を描いている。人気の秘密は、除隊後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してそれを克服した元兵士も英雄として描くなど、屈折した「軍事タカ派」の心情に迫りつつ、2020年代における愛国主義を訴える点だ。

 著者のヘグセスは、プリンストン大を卒業しハーバードにも学んだ後、グアンタナモ基地の守備やイラク戦争などで戦功を挙げた軍人でもある。除隊後は保守政治家を目指したが、転身して現在はFOXニュースの人気キャスターになっている。1980年生まれの40歳である。

 現在のアメリカの保守政界は、ドナルド・トランプの存在なくしては語れない。大統領を退任しても影響力は残ると言われている。強い孤立主義を掲げて「他国への介入、他国への支援」に反対するトランプだが、イランの要人を暗殺する一方で、イスラエルの保守強硬派を支援するなど、軍事外交の全般にはタカ派的な姿勢が目立つ。ヘグセスは、そうしたトランプ流のタカ派姿勢を支持する立場で本書をまとめている。

 つまり、自由や人権といった普遍的な理念には背を向け、排外的な感情に訴える愛国主義を求心力とし、敵と決めつけた相手には超法規的な迫害や攻撃を厭(いと)わない、そんな立場だ。バイデン時代の到来とともに、こうした保守系のタカ派がどんな動きをしてゆくか、本書はそれを占う材料とも言える。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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