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週刊エコノミスト Online 闘論席

片山杜秀の闘論席

撮影 中村琢磨
撮影 中村琢磨

 北昤吉(れいきち)という人がいた。北一輝の弟である。兄は武力による国家改造を策し、2・26事件で刑死したが、弟は、言論人として、ついで国会議員として、合法的な政治改革を目指した。1930年代の日本で強力政治の実現を叫んだ。

 強力政治とは、今の言葉でいうと、官邸主導の「決められる政治」である。明治憲法体制下の日本では政治の力が分散しがちだった。官庁のタテ割りはきつく、首相の権限は内閣の調整役に過ぎない。議院内閣制ではなかったから、議会と内閣の意思も分裂しがちだ。陸海軍という内閣や議会の統制の及ばない巨大組織もある。それでは満州事変以降の非常時を乗り切れるわけがない。北昤吉が強力政治の必要性を訴えたゆえんである。

 だが、やがて彼の考え方は変わる。日本人は出るくいを打つ生き物だと言う。タテ割りを打破して上から統制しようとすると、かえって官庁それぞれの仕事の効率が落ちる。誇りを失い、やる気がそがれるからである。ゆえに強力政治はこの国に向かない。日本人にふさわしいのは職域奉公の思想だ。軍隊も大蔵省も外務省も厚生省も、おのおのの縄張りに徹し、よそを忖度(そんたく)せず、我を貫くと結果オーライになる。日本はそういう…

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