教養・歴史書評

消失、流失免れた史料 古書業者が語る流通と保存=今谷明

 日本は古書・古典籍が比較的多く残存しているとは以前から言われてきたが、その理由については諸説あり定説がなかった。それでも幕末・明治ごろには日本の古美術が大量に欧米に流出したものの、当時は危機感もなかった。

 ところが昭和の初めごろ、『吉備大臣入唐絵巻(きびのおとどにっとうえまき)』(筆者は『伴大納言絵巻(ばんだいなごんえことば)』の常盤光長と言われている。超国宝級の作品)が米国に買い取られていることが発覚し、人々が騒ぎ出して重要美術品制度(現在の国宝、重要文化財)が定められたのである。

 日本は大陸のような革命や王朝交代がなく、戦乱も比較的少なかったが、それでも応仁の乱では名家や寺社が消失し、大半の書籍が灰燼(かいじん)に帰した。この乱で焼け残ったのが、当時屈指のアーカイブであった太政官の官務文庫(壬生(みぶ)官庫ともいう)である。古社寺を焼いて回った守護大名も、国郡絵図や荘園文書を保管している官庫の史料は、領国経営上、尊重せざるを得なかったからだ。

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