週刊エコノミスト Online書評

アメリカ ビル・ゲイツ氏の環境メッセージ=冷泉彰彦

 コンピューター関連企業の創業者たちの中で、近年はマイクロソフトのビル・ゲイツ氏の存在感が高くなっている。ゲイツ氏は2000年にCEOを辞任し、08年には第一線を退いた後、社会貢献活動に徹することで徐々に評価を高めてきた。

 そのゲイツ氏による環境政策への啓発書『環境破綻をどうやって回避するか 現時点での解決法とブレークスルーの必要』(How to Avoid a Climate Disaster: The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need、3月現在で邦訳未定)が2月16日に発売された。環境政策について、真っ正面から問題提起をした「硬派」の内容でありながら、アマゾンの「最も売れている本」のノンフィクション部門で2位をキープ、電子でも紙版でもよく売れている。もしかすると06年にアル・ゴア氏が映画「不都合な真実」および同名の書籍で環境問題に関する理解を広げたのと同じような「現象」となるかもしれない。

 本書の内容だが、いかにもゲイツ氏らしい「理詰め」のアプローチで一貫している。まず「510億トン」の二酸化炭素が排出されている現状について、それが地球環境に与える負荷について厳しく指摘。その上で、その「510億トン」をどうやって「ゼロ」にするかを「五つの疑問」として整理している。

 どういうことかというと、人間が生きていく上で必要なスペースと必要なエネルギー消費を設定して、それに人口の数を掛け合わせることで、そこから排出される二酸化炭素を算出。改めて、この数値を個人やコミュニティーの単位に落として、全人類の行動変容を訴え、同時にグリーン・マーケティングの手法で相殺することで全体的に「ゼロ」を実現するとしているのだ。

 基本的な考え方は、国連や国際社会における持続可能性の議論に忠実だが、本書の特徴は、危機感と行動変容の必要性を、個人やコミュニティーのベースにまで落とし込んだところにある。その上で数値をベースに仮説を積み上げることで「ゼロ化」というのは、「大変に困難」だが「実現は可能」ということを訴えている。そうした理詰めの姿勢がミレニアル世代には歓迎されていることも、ヒットの理由と考えられる。

(冷泉彰彦・在米作家)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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