教養・歴史書評

賛否両論の「MMT」一体どこが間違っているのか? アメリカで話題のMMT批判本を読み解く

    著者 ジェラルド・A・エプシュタイン(マサチューセッツ大学アマースト校教授) 訳者 徳永潤二、内藤敦之、小倉将志郎 東洋経済新報社 2800円

    注目の貨幣理論を徹底検証 限界を指摘する理論の書

    モダン・マネー・セオリー(現代貨幣理論、MMT)という貨幣理論が世界で注目を浴びている。

    2008年の世界金融危機後、大々的な金融緩和にもかかわらず経済の回復が思わしくない。

    金融政策の限界を感じる中で、財政政策の必要性が再認識された。他方で大々的な財政拡張政策には財政破綻の懸念がある。

    そうした中で主権通貨を発行する国は、財政破綻はあり得ないと主張するMMTが注目されたのである(インフレになる可能性はある)。

    ポスト・ケインズ派の一部はMMTを提唱しているが、全員が賛同しているわけではない。

    本書はポスト・ケインズ派の有力な一員によるMMTの限界を論じた書である。

    MMTは財政赤字によって自動的に主権貨幣が発行されると考えている。

    しかし、これは正しくなく、財政赤字が貨幣化されるかどうかは政治的に決まると本書は主張する。

    赤字財政を貨幣化するかどうかを決めるのは中央銀行だから、これは正しい。

    逆に、ギリシャは統一通貨ユーロを使っているが、ECB(欧州中央銀行)はギリシャ国債を貨幣化することができる(ただし、ドイツはそれに政治的に反対してきた)。

    さて、外国の通貨は発行することはできないから、MMTが提唱するマクロ経済政策は自国通貨建て対外借り入れができない国は適用できない。

    けれども、MMTは変動相場制によってこの問題を解決できると考えている。

    本書はこれにも反対する。

    実際、為替の切り下げによって輸出を拡大するのには限界があるし、交易条件を非常に悪化させることにも問題があるだろう。

    他方、世界通貨ドルを持つアメリカも、自国だけのために政策を実施すると、他国によくない影響がでる可能性があると言う。

    これも可能性としてはそうだろう。

    MMT派がMMTの文脈では金融不安定性を考えていないとも批判する(MMTとは無関係な文脈では大いに論じている)。その理由は安全資産である国債の累積は金融を不安定化しないと彼らが考えていることにあると言う。

    けれども、安全資産である国債は金融機関が借金をするための重要な担保になることを指摘する。

    本書が指摘するMMTの限界は原理的には正しいだろう。しかし、我が日本は先進国最悪の政府債務の累積にもかかわらず、財政破綻もインフレも起こる気配がない。

    日本は世界最大の債権国でもある(ただし、中国本土と香港を合わせると日本を超える)。少なくとも日本ではMMTの限界はかなり先のことだろう。

    (服部茂幸・同志社大学教授)

    (本誌初出 『MMTは何が間違いなのか? 進歩主義的なマクロ経済政策の可能性』 評者・服部茂幸 20210323)


     Gerald A.Epstein マサチューセッツ大学アマースト校では政治経済研究所の共同所長も務める。金融危機や金融規制、資本勘定規制、中央銀行と大手金融機関の関係等をめぐる著作を多数発表している。

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