「自分だけは大丈夫」と思っている人ほど知らない 首都直下地震で本当に危険な「意外な街」
日本列島の地下深部で太平洋から沈み込むプレート(岩板)が跳ね上がり、この日から地震と噴火が頻発するようになった。
本連載の第1回目(2020年5月12日号)でも取り上げたように、我が国は平安時代以来という1000年ぶりの「大地変動の時代」に突入したのである。
現在、直面する地学上の喫緊の課題は、首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火の3項目だ。
東日本大震災を引き金として全国的に地盤が不安定になり、各地で直下型地震が起きやすくなった。
とりわけ重要なのは3400万人以上が暮らす首都圏の地下19カ所にわたって発生が予想されている首都直下地震である。
東京都は2018年、地震による総合危険度を地域(町丁目)ごとに塗り分けたマップを公表した。
これは地震による建物倒壊、火災の発生、避難救助の困難度という3項目で危険性を総合的に評価し、5段階に分けて表示したものである(図)。
最も危険な「ランク5」は85地域で、その7割が足立区、荒川区、墨田区など東京下町の8区にある。
それ以外では大田区の一部、中野区や杉並区の中央線沿線などで「ランク5〜4」の地域が抽出された。
都の「危険度ランク」
危険度のランクが高くなる要因を見てみよう。
最初の「建物倒壊度」は、地震の揺れに対する地盤と建物の抵抗力が関わっている。
例えば、軟弱な地盤では揺れが増幅されるので、造成で盛土した土地や埋め立て地が弱い。
また、建物の耐震性は鉄筋の有無や建築年数などで左右される。
次の「火災危険度」は、出火しやすさと延焼の危険性から決まる。
消防車が通行できない狭い道路や耐火性能の低い住宅が残っている地域で、評価が下がる。
一般に東京23区の西部は東部に比べると地盤は良いが、環状7号線の周囲などに見られる木造住宅密集地域(略して木密地域)が当てはまる。
三つ目の「災害時の活動困難度」は、危険地からの避難や消火活動が難しい度合いに比例する。
公園など活動有効な空間が足りない地区の危険性が高く、狭い道路が残る杉並区や世田谷区の住宅地などが相当する。
危険度ランクは約5年ごとに更新されており、18年公表のマップを前回13年のものと比べると、建物倒壊の危険度は2割、また火災の危険度は4割低下した。
この5年間で再開発などをきっかけとして市街地の耐震補強が進んだことが主な要因だが、「転ばぬ先のつえ」のことわざ通り、企業も個人もマップに即して減災の準備を早急に進めることが肝要だ。
ちなみに、内閣府は首都直下地震が発生する確率を「今後30年間で70%程度」と予測しているが、日本地震学会は首都直下地震を年月日まで予知することは不可能と断言している。
したがって「いつ起きてもおかしくない」と考えて行動すべきものである。
次回は日本全体の産業経済を壊滅させる可能性が極めて高い「南海トラフ巨大地震」を取り上げよう。
(本誌初出 東日本大震災10年/2 いつでも起きる首都直下地震/44 20210323)
■人物略歴
鎌田浩毅 かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。