「独占しすぎ」を当局が警戒?「アリペイ」など決裁サービスが中国で逆風をうけている理由
アリババやテンセントといった中国巨大ITの金融業務に対する締め付けが強まっている。
中国人民銀行(中央銀行)は今年1月、銀行以外の決済事業者に対する規制を強化する条例案を発表した。
念頭にあるのは、アリババ傘下のアント・グループが運営する「アリペイ」、テンセントの「ウィーチャット・ペイ」といった中国の2大スマートフォン決済サービスだ。
条例案は第一に、金融の機能別規制をさらに強化する。
決済業務についてもこれまでのプリペイドカード、銀行カードといった形式上の区分ではなく、決済用の口座運営業務と決済取引処理業務の二つに分けることで、従来の区分では対応しきれない新技術・方式の登場に対応できるようにする。
また、銀行以外の決済事業者が決済業務のライセンスで認められた範囲外の業務をすることを禁じ、与信活動に従事してはならないとした。
本業の決済業務への回帰を促し、融資などその他の業務を行うにはそれぞれのライセンスを保有するよう求め、規制の抜け穴を塞ぐ。
ただし、アントなどが各種の金融ライセンスを保有していたとしても、決済アプリでユーザーを囲い込み、それを基に資産運用、融資、クレジットカード、保険といった金融サービスを提供する従来のモデルは、金融当局から閉鎖的でリスク管理が不透明などと批判されている。
特に、融資の場合、背後に銀行から資金が流れている場合もあり、金融システム全体に影響するリスクが看過できないことから、規制の強化は続くと見られる。
独占の認定ライン
条例案は第二に、独占(寡占)の認定ラインを定めた。
1社の全国電子決済サービス市場におけるシェアが2分の1に達した場合、2社の合計シェアが3分の2に達した場合、3社の合計シェアが4分の3に達した場合(これらは独占禁止法に準じている)、人民銀行は独禁法の執行当局に「市場の支配的地位」にあるか否かの審査を相談・要請できる。
市場の健全性に影響がある場合、人民銀行は執行当局に、支配的地位の乱用行為をやめさせるなどの措置を提案できる。
足元でアリペイなどが「支配的地位」にあると認定されるか否かは、正式な条例や細則待ちである。
例えば、モバイル決済を見ると、件数は多いが少額取引が多いため、シェアを件数で見るか決済金額で見るかで様相が大きく異なるが、条例に具体的な規定はない。
規制以外でも、アリペイなどへの風当たりが強くなっている。
最近のデジタル人民元(E-CNY)の実証実験では、電子商取引(EC)大手の京東集団(JDドットコム)のサイト(JDモール)でも使えるようにしたが、ECの店舗側は法定通貨であるデジタル人民元の決済を拒否できない。
これは、店舗側が指定する決済方法しか使えないこれまでの独占的な状況の打破につながる可能性がある。
金融当局は、巨大ITによる金融業務の範囲が広がり、規模が大きくなるにつれて、金融システム全体に影響するリスクが累積することを警戒しており、機能別規制を強化し独占を阻止することでリスクを引き下げる狙いがある。
(神宮健・野村総合研究所金融イノベーション研究部シニア研究員)
(本誌初出 「アリペイ」への逆風強まる スマホ決済「独占」の監督強化=神宮健 20210323)