新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 中国 異形のハイテク国家

「注文・調理・会計までAIで管理」中国版「ロボットレストラン」の本家を越えた凄さ

京東のロボットレストラン
京東のロボットレストラン

スマホ決済、ドローンの活用など、急速にIT社会が急速に発展している中国。

その発展の裏側には、高騰する人件費をどう抑えるかという切実な問題があるという。

人件費抑制の一つの答えが「ロボット・AIによる無人化」。

日本でも無人レジの導入が進んでいるが、中国でオープンした「ロボットレストラン」は、はるか先を予見させるものだった。

中国 異形のハイテク国家』(毎日新聞出版)を刊行した赤間清広氏が、中国経済の最前線を紹介する。

キャンパス内の「無人宅配ロボット」

中国ネット通販2位、京東集団(JDドット・コム)のケースを見てみよう。

京東は午前11時までの注文は当日中、夜11時までの注文であれば翌日午後3時までに商品を届ける「211限時達」など充実した物流サービスを売りにシェアを拡大してきた。

短時間での配達を可能にするためには、商品の仕分けなどあらゆる作業を効率化する必要がある。その秘策が徹底した「無人化」だ。

既に商品の運搬や仕分けなどの作業を専用ロボットがこなす「無人倉庫」を実用化。こうしたノウハウをもとに新たな無人化サービスを次々と打ち出している。

北京市内にある中国人民大学のキャンパス内をタイヤが付いた箱形の機械が動き回っていた。

人民大での無人配送実験=2018 年4 月
人民大での無人配送実験=2018 年4 月

高さは1メートルほど。人が歩く程度の速度でゆっくりと進み、歩行者など障害物を探知すると自動で進路を変えて衝突を未然に防ぐ。

人に代わって商品を配達する京東の無人宅配ロボットだ。

中国の名門大学のキャンパスは驚くほど広い。

講堂や体育館、図書館といった教育施設に加え、全国各地から集まる学生のために寮を併設しているケースが多いからだ。

キャンパス内には一般の市民や自動車が立ち入ることは少ないため、企業にとっては絶好の実験場となっている。

宅配ロボットは学生寮の前で止まると、注文主のスマートフォンに「到着」の連絡と暗証番号を送信。

しばらく待っていると男子学生が外に出てきた。どうやら彼が注文主のようだ。

宅配ロボットに取り付けられたタッチパネルに暗証番号を打ち込むと、六つある扉の一つが開いた。通販で買った友達へのプレゼントだという。

人民大での無人配送実験=2018 年4 月
人民大での無人配送実験=2018 年4 月

「配達員の人件費は年々上がり、人の確保も難しくなっている。将来はさらに人の奪い合いに拍車がかかるだろう」

京東物流の劉向東・自動運転部運営ディレクターは「無人化の実験は未来に備えた必要な投資だ」と強調する。

京東は人民大に続き、湖南省長沙市などの市街地でも宅配ロボットの実験を開始。コロナ感染の震源地となった湖北省武漢市にも投入し、病院への医療物資の搬入などを担った。

本格的な味の「ロボットレストラン」

京東が無人化に挑むのは通販だけではない。

18年11月に天津市内にオープンしたのは中国初の「ロボットレストラン」。

料理の注文から調理、配膳、会計など一連の工程をすべてAI(人工知能)が管理。

厨房では5台の調理ロボットが稼働しており、人間のスタッフの仕事は調理ロボットに食材をセットするだけだ。

配膳ロボットは、無人倉庫で培った空間把握機能などを応用し、テーブルまで最短の配膳ルートを自動で計算。1日500回以上の配膳を繰り返す。

筆者も開店初日にレストランを訪ねたが、店内のあちこちでロボットが稼働する近未来の光景と同時に、その本格的な味に驚かされた。

中国では地域によって好まれる食材や味付け、調理法などがまったく異なる。

日本人にも馴染み深い広東料理、四川料理のほかに、「山東料理」「江蘇料理」「浙江料理」「湖南料理」「安徽料理」「福建料理」などが有名で、これらを「中国八大料理」と呼ぶ。

ロボットレストランでは「中国八大料理」を代表する40種のメニューを提供。

味付けや調理法は各料理を代表する著名な料理人が監修しており、完全自動制御のため味にムラが出ることもない。

配膳も独自開発したロボットが担う
配膳も独自開発したロボットが担う

ロボットレストランの隣にあるのは、「無人コンビニエンスストア」。

商品に取り付けた電子タグの情報をセンサーが自動で読み取り、スマホ決済によって代金を自動で支払うことで、レジを廃止した実験的な店舗だ。

疲れを知らないロボットであれば24時間、働くことができる。

しかし、「高コスト」の問題はまだ克服できていない。

それでも京東物流の王振輝・最高経営責任者(CEO)は筆者の取材に「無人化の実用化を探ることは大きな意味がある」と強調した。

「本業に、ロボットレストランや無人コンビニなどを組み合わせることで、物流から消費、飲食業にいたるまで幅広いノウハウ、データを収集できる。我々が最新技術の開発に多くの人材と費用を投じてきたのは、あらゆる分野で質の高いサービスを提供していくためだ」

赤間清広(あかま・きよひろ)

1974年、仙台市生まれ。毎日新聞経済部記者。2016年4月~2020年まで中国総局(北京)特派員を務めた。著書に『中国 異形のハイテク国家』(毎日新聞出版)。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事