「自分だけ評価されない」と思う人が陥っている「残念な思考パターン」の正体
Q 周りから重視されないと、被害妄想を抱き落ち込みます
A 自分を特別視する弊害を知り、周りを公平に評価する目を養おう
自分で言うのもおかしいですが、私は昔からできがよく周りからちやほやされてきたので、自分が重視されていないとすぐ被害妄想を抱いてしまいます。職場には優秀な人が多く、自分が袖にされているのではないかと疑心暗鬼です。
(IT関連会社勤務・20代男性)
これまで日の当たる場所を歩んできた人は、どこに行っても主役であることを期待してしまいます。
でも、上には上がいますし、評価のシーンやタイミングもいろいろとあるので、常に自分が主役でいるわけにはいかないものです。
そんなことで腐っていては、いい仕事はできません。別に周囲の人はあなたを袖にしているわけではなく、往々にしてそれは自身も言っているように被害妄想に過ぎないからです。
そこで、そんな誤解を避けるためにも、認識を改める必要があるように思います。
被害妄想避ける4公理
参考にするのは、20世紀イギリスの哲学者ラッセルの説く被害妄想の予防薬です。
彼は被害妄想を避けるために、次の「四つの公理」を提示しています。
(1)「あなたの動機は、必ずしもあなた自身で思っているほど利他的ではないことを忘れてはいけない」、
(2)「あなた自身の美点を過大評価してはいけない」、
(3)「あなたが自分自身に寄せているほどの大きな興味をほかの人も寄せてくれるものと期待してはならない」、
(4)「たいていの人は、あなたを迫害してやろうと特に思うほどあなたのことを考えている、などと想像してはいけない」
ここに共通しているのは、自分を特別視することの弊害です。
ラッセルは(4)の公理を説明する中で、公的な晩餐(ばんさん)会でスピーチをしたのに、新聞に写真が載っていないと憤慨する人の例を挙げています。これは、まさに典型的な例だと思います。
スピーチをしたのは、その人だけではないのです。でも、自分のスピーチだけが特別だと思っているから、被害妄想を抱くはめになるわけです。
職場でも同じでしょう。きっと同僚などは、あなたと同じようにみんなそれぞれ活躍しているのだと思います。
しかし、上司でもない限り、部下自身は自分のことしか見えないので、つい自分だけが頑張っているように思いがちです。
相談者は優秀な人材のようですので、いずれは人の上に立つことになると思います。
その時のためにも、ぜひ自分だけを特別視するのではなく、先の四つの公理を基に公平に、周りの人の活躍を評価するよう心掛けてみてはいかがでしょうか。
(本誌初出 周りから重視されないと、被害妄想を抱き落ち込みます/72 20210316)
(イラスト:いご昭二)
バートランド・ラッセル(1872~1970年)。イギリスの哲学者。もともとは数理論理学を専門としていたが、後に平和活動にまい進する。著書に『哲学入門』などがある。
【お勧めの本】
『ラッセル 幸福論』(岩波文庫)
被害妄想への対処法を論じている
読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp
■人物略歴
小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。『結果を出したい人は哲学を学びなさい』(毎日新聞出版)など著書多数。
「小川仁志の哲学チャンネル」 https://www.youtube.com/channel/UC6QhXJZtGm7r287kam1Z1bg