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教養・歴史小川仁志の哲学でスッキリ問題解決

なぜ100%正しいエビデンスは存在しないのか マルクス・ガブリエルの「新実在論」入門 

インタビューに答えるボン大哲学科教授マルクス・ガブリエル氏=2020年5月29日、念佛明奈撮影
インタビューに答えるボン大哲学科教授マルクス・ガブリエル氏=2020年5月29日、念佛明奈撮影

 Q エビデンス(根拠となるデータ)がなければ信用してもらえないという風潮に疑問を感じます

 A ヒトは各自の価値観で生きていて、存在の意味は唯一絶対ではないと考えよう

何を提案してもすぐに「エビデンスは?」と言われます。データがあれば、絶対に成功するわけでもないのに……。本当にこのデータ至上主義、科学至上主義の世の中は正しいのでしょうか?

(製造業勤務・38歳男性)

たしかに科学が世の中を支配する時代ですから、データがないとか、エビデンスがないなどという場合は、聞く耳さえもってもらえないのが現実です。

でも、自分としては長年の勘や直観によって絶対にいけると確信できるケースは多々あるものです。

また、そう信じたいという気持ちもあるでしょう。

そういう主観的な感覚は、もはや正当化するのは不可能なのでしょうか?

そこで参考になるのが、世界が今最も注目するドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルの新実在論です。

ガブリエルは、一般向けに書いた著書『なぜ世界は存在しないのか』がベストセラーになり、哲学界のロックスターとも呼ばれる有名人です。

存在は見方の数だけ実在

ガブリエルは、物事が存在するということの意味について、まったく新しい考え方を提起したのです。

これまでは、物事は人間の認識とは無関係に存在していると考えるか、あるいは物事はそれぞれの人の見方によって見え方が変わってくると考えるかのいずれかでした。

どちらの論も、物事は一つであるという点は同じだったのですが、ガブリエルは物事は人の見方によって見え方が変わってくるだけでなく、なんと存在そのものも変わってくると論じたのです。

いわば、一つの物を100人が見れば、単に100通りの見方があるというのではなく、実際に100個異なる物が存在しているということです。

そんなバカなと思うかもしれませんが、誰もがそれぞれの価値観で生活する(パラレルワールド)なら、それもありうるかもしれません。

ここで大事なのは、ガブリエルが科学主義的な考えの絶対性に異議を唱えている点です。

私たちの認識にかかわらず、唯一絶対の世界があるというのは、どう考えても人間の存在を軽視しています。

この発想に立てば、必ずしもデータ至上主義が正しいとは言えなくなるでしょう。

ですから相談者も、そのデータは誰かが、その人の都合のいいように事実を切り取ったものに過ぎないという見方をしてみてはどうでしょう。

反論の糸口が見えてくるかもしれませんよ。現に、往々にしてデータとはそういうものですから。

(イラスト:いご昭二)

(本誌初出 エビデンスがなければ信用してもらえないという風潮に疑問を感じます/60 20201215)


マルクス・ガブリエル(1980年~)。ドイツの哲学者。ドイツ史上、最年少で哲学の教授になったとされる。新実在論を掲げ、学界だけでなく世界の言論界でも注目されている。著書に『「私」は脳ではない』などがある。


【お勧めの本】

『世界史の針が巻き戻るとき』(PHP新書)

ガブリエルが新実在論を新書レベルでわかりやすく説いた本


読者から小川先生に質問大募集 eメール:eco-mail@mainichi.co.jp


 ■人物略歴

おがわ・ひとし

 1970年京都府生まれ。哲学者・山口大学国際総合科学部教授(公共哲学)。20代後半の4年半のひきこもり生活がきっかけで、哲学を学び克服。この体験から、「疑い、自分の頭で考える」実践的哲学を勧めている。

「小川仁志の哲学チャンネル」

https://www.youtube.com/channel/UC6QhXJZtGm7r287kam1Z1bg

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