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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

地球温暖化はCO2排出量増加だけでは説明できない理由 「炭素循環」とは何か

実は、大気中の二酸化炭素濃度は、地球内部での炭素の循環や、大気と海洋の間での炭素のやりとりなど、複雑な相互作用によって決まっている。

二酸化炭素濃度を議論する際には欠かせない理解だが、あまり多くの人には知られていない。

大気中の二酸化炭素濃度を決めるのは「炭素循環」と呼ばれる現象である(図)。

産業革命以来、人類の活動によって大量の二酸化炭素が放出されたが、地球システム全体で見れば、炭素(C)の循環による影響の方がはるかに大きい。

炭素は長い時間をかけて状態を変えながら地球を循環しており、二酸化炭素もその一つなのである。

炭素循環の仕組みを説明しよう。地下深部のマントルに含まれている二酸化炭素は、大洋底の中央海嶺(かいれい)の火山活動によって海中へ放出される。

同様に、海洋プレートが大陸プレートの下へ沈み込む地域では、マグマが大陸を貫いて地上に噴出し、二酸化炭素を大気中へ放出する。

次に大陸上では、二酸化炭素は雨水や地下水に溶けて炭酸(H2CO3)となる。

炭酸は長い時間をかけて地上の岩石を溶かし出すため、「化学的な風化作用」と呼ばれる。

溶かし出されたカルシウムイオン(Ca2+)や炭酸水素イオン(HCO3−)は、川を経て海に流れ込み、炭酸カルシウム(CaCO3)などの炭酸塩鉱物として沈殿する。

なおこの時、海に生息する有孔虫(ゆうこうちゅう)やサンゴが、炭酸カルシウムからなる石灰岩となる。

一方、大気と海水中に拡散した二酸化炭素は、生物が行う光合成によって有機物(有機炭素)となる。

炭酸塩鉱物や有機炭素は、海に運ばれて海洋底の堆積(たいせき)物となる。

それらが何千万年という時間をかけて海洋プレートとともに移動し、最後にプレートの沈み込みに伴って大陸プレートに付加される。

付加されたものの一部は、沈み込みとともに地球深部に運ばれ、火山活動によってマグマとともに再び地表へ放出される。

このように、炭素はさまざまなプロセスを通じて循環している。

調整の仕組みが作動

さて、化学的な風化作用が起きる時、一般に化学反応は温度が高いほど速く進む。

よって何らかの理由で大気の温度が上昇すると、二酸化炭素による岩石の風化が速まり、大気中から二酸化炭素が減っていく。

二酸化炭素濃度が低下すると、大気中の温室効果が減少して気温は下がる。

これと反対に、何らかの理由で気温が低下すると、今度は風化作用が抑制されるため、大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。

つまり、大気中の二酸化炭素濃度は、こうした地球スケールの炭素循環によってたえず調整され、現在まで安定した環境が維持されてきたのである。

(本誌初出 地球は温暖化している? 「炭素循環」が決めるCO2濃度/31 20201215)


 ■人物略歴

鎌田浩毅 かまた・ひろき

 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。

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