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国際・政治東奔政走

日本をよそに親密さをアピール?バイデン大統領と習近平「異例の2時間電話会談」驚愕の中身

米中首脳の脳裏には、10年前に習氏(右)の招きでバイデン氏が訪中した際の経験があった?(中国・北京で2011年8月18日)(Bloomberg)
米中首脳の脳裏には、10年前に習氏(右)の招きでバイデン氏が訪中した際の経験があった?(中国・北京で2011年8月18日)(Bloomberg)

米国のバイデン政権が発足して1カ月がたつが、この間、日本政府が注目したのが、対中国政策だ。

とりわけ、2月10日の米中首脳協議は臆測を呼んだ。

「2時間」の電話協議

「昨晩、習近平中国国家主席と2時間続けて電話で話し合った。いい会話だった。(オバマ政権の)副大統領だった時に長い時間ともに過ごした。しかし、ご存じの通り、こちらがぐずぐずしていたら、ランチを横取りされてしまう」。

電話協議の翌日、ホワイトハウスでの会合の冒頭でバイデン氏は記者団を前にこう語った。

6日後の2月16日にも、米中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーでの米CNN主催の市民集会で習主席と「旧知の仲」だと強調し、「2時間も話した」と述べた。

ホワイトハウスの発表では、中国による香港の民主派弾圧や新疆ウイグル自治区の人権問題、不公正な貿易慣行などをめぐって協議したという。

「ランチを横取りされる」というのは、「中国にランチを横取りされるって? 競争相手ではないのに」と甘い認識を示して批判を浴びた過去の発言を改めて打ち消す狙いもあったのだろう。

それにしても、首脳電話協議が2時間に及ぶのは異例だ。安倍晋三前首相とトランプ前大統領は1時間以上電話で話すこともあったが、それを上回る。

親密さのアピールは、2011年夏、次期最高指導者に内定していた当時の習副主席の招待で訪中し、6日間の滞在中、5回の会談を行った時の経験が脳裏にあるのだろう。

外務省関係者は「思い出話も交えながら互いの考え方について理解を深めるのが狙いだったようだ。ビジネスライクではなくざっくばらんに話し合った」と語る。

米中首脳が互いに理解を深めるのは歓迎だが、日本政府が神経をとがらせるのは、それによって日本の国益が損なわれることだ。

米政府高官は「中国が戦略的な競争相手という位置付けは(トランプ前政権を)踏襲するが、アプローチは異なる」と述べている。

バイデン氏も米中間にある「異なる歴史」に配慮する姿勢をにじませる。

例えば、市民集会ではこうも述べた。

「中国は国内が分裂している時に侵害されてきた歴史がある。習氏の考えは、結束し厳しく管理できる中国が必要ということだ」。

日米間の認識のずれが生じたのは、2月1日に施行された中国の海警法をめぐる扱いだ。

習指導部の下で態勢が強化された海警部隊の役割を明示した新法で、武器使用などを含む権限を規定している。

3月1日までの1カ月で中国側は沖縄県・尖閣諸島周辺海域での挑発行為を続けており、運用によって国際法上の問題が生じるとして日本政府は警戒を強めている。

これに呼応して米国務省は2月19日、プライス報道官が「海警法の発動で不当に主権を主張することを懸念している」と批判した。

尖閣諸島周辺での中国の挑発活動には米政府も懸念を強めており、バイデン大統領は尖閣周辺で不測の事態が起きた場合、日本の施政下にあるとして日米安全保障条約に基づく防衛義務を履行すると表明している。

ただし、日本側の要請にもかかわらず、尖閣諸島の領有権が日本にあることについては中立の立場を維持している。

尖閣巡り「勇み足」

その原則論を破って踏み込んだと思わせる発言が出たのは、2月23日だ。

米国防総省のカービー報道官は海警法施行で東シナ海の緊張が高まっていることを記者団から問われると、「尖閣諸島の主権について日本の立場をもちろん支持している」と述べ、領有権が日本にあるとの認識を示した。

この発言は日本政府だけでなく、中国政府にも寝耳に水だった。

しかし、3日後にはカービー氏自身が「間違いを遺憾に思う」と述べ、前言を撤回。

施政権は日本にあると認めても、主権が日本にあるかどうかを認めないという従来の米政府の方針に「変更はない」と述べ、勇み足だったと謝罪したのだ。

「尖閣諸島危機」において米大統領が日米安保条約の防衛義務履行を表明したのはオバマ氏からだが、実際には以前から尖閣諸島が日本の施政下にあることを米政府は認めている。

「勇ましい姿勢を中国に見せることは重要だが、米政府の方針は、何ら変わっていない」と外務省関係者は言う。

しかし、この一連の騒動は、国際的に尖閣諸島の領有権問題は存在しないという日本の立場を弱め、領有権を一方的に主張する中国の立場を強めたことは否めない。

中国との距離を縮めているようにみえるが、それでも日本政府はバイデン政権に期待する。

関係者によると、上院外交委員長を長く務めたバイデン氏は、グローバルパワーであるための米国の要件を認識しているという。

「同盟国に忠誠を求めるなら、人種の違いを尊重し、相手の国民を尊敬する態度が必要だ。バイデン氏にはそういう態度が身についている」。

この考えは、ケネディ元大統領の特別補佐官を務め、米ハーバード大学教授だったアーサー・シュレシンジャー氏が提唱した同盟強化論だ。

「日本の国益はアジアの平和と安定だ。どうすればこれを実現できるか。バイデン氏は聞く耳を持っている」(外務省関係者)。

親密な米中首脳をどうコントロールするかが、菅政権の課題だ。

(及川正也・毎日新聞論説委員)

(本誌初出 “親密”アピールの米中首脳 神経とがらせる菅政権=及川正也 20210316)

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