投資・運用 相続税
知らないと大損!相続税に大きな違いが出る「4・3・1の法則」とは何か
相続税の申告で不動産など相続財産の評価額を算出する際、基準となっているのが国税庁の「財産評価基本通達」だ。
しかし、この基本通達通りに相続財産を評価・申告しても、国税側がその評価額を認めず、納税者に過少申告加算税などのペナルティーも課す事例が目立っている。
国税側がこれまで否認した事例を筆者が調べたところ、「4・3・1の法則」が見えてきた。
筆者は、こうした財産評価基本通達に基づく不動産の評価について、国税側が否認した複数の判例や裁決事例を分析した。
その結果、一般的に、
(1)相続税評価額の4倍以上の価格での不動産購入、
(2)不動産購入から3年以内の相続発生、
(3)相続が発生してから1年以内の不動産売却
──という三つの条件を満たすと、否認される可能性が極めて高いと考えており、「4・3・1の法則」と名付けている。
相続対策では不動産の購入が手段の一つだが、これは時価よりも財産評価基本通達に基づき評価した相続税評価額のほうが低いことを利用している。
そもそも、相続税法第22条では、相続税の財産評価は「時価」で申告することになっているが、不動産など時価の算定が困難な財産も少なくない。
そこで、実務上は財産評価基本通達の定める評価方法での申告が認められている。
財産評価基本通達にのっとった評価方法として、よく知られているのが「相続税路線価」だろう。
路線価は国土交通省が発表する地価公示価格の8割程度の価格水準に設定されているため、大ざっぱに言えば1億円の価値がある土地の相続税評価額は8000万円に圧縮できる。
その結果、現金1億円を相続するよりも不動産の形で相続したほうが納める相続税は少なくなるのである。
例外規定の「6項」
しかし、この財産評価基本通達には例外規定も設けられている。
それが、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」とした財産評価基本通達6項だ。
国税側が財産評価基本通達にのっとった申告を否認する際、この6項を適用しているが、その判断基準として「著しい価格乖離(かいり)」と納税者の「租税回避行為」を挙げているものの、具体的な数値は明らかではなく、個別の事案に応じて判断されている。
この6項が適用された最近の否認事例として、2019年8月の東京地裁判決がある。
被相続人(亡くなった人)が亡くなる2年半~3年半前、5億5000万円の賃貸マンションなど2棟を購入。
相続発生後、相続人はこのマンションを約1億3000万円と評価するなどして相続税を申告し、相続発生から9カ月後にはこのマンションを5億2000万円で売却した。
しかし、国税側は「財産評価基本通達の定める評価方法を画一的に適用することで、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らか」として6項を適用し、この評価額を否認。
売却金額に近い鑑定評価額で課税するなどし、過少申告加算税も課した。
相続人側は課税処分を不服として訴えを起こしたが、昨年6月の東京高裁判決と合わせていずれも敗訴している。
タワマンも取得価格で
他にも、国税不服審判所の11年7月の裁決事例では、相続発生の1カ月前に2億9300万円で購入したいわゆるタワーマンションの1室の扱いが争点となった。
相続人はこのマンションを相続税評価額5800万円として申告し、相続発生から4カ月後に2億8500万円で売却したが、裁決では「評価基本通達の定めによらず、他の合理的な方法による評価が許されるものと解するのが相当である」として、6項を適用したうえで取得価格(2億9300万円)によって課税している。
これらの事例を見ると、いずれも「4・3・1の法則」を満たしていることが分かる。
当然、所轄税務署長の方針や担当する税務署員の考え方によっても異なるため、3条件のいずれかを満たしただけで否認されるケースもあろう。
また、3条件すべてを満たしても否認されないこともありうるが、少なくともすべての条件を満たしてしまうと否認される可能性が高まると考えていい。
なぜ「4・3・1の法則」を満たすと否認される可能性が高くなるのか。
まず、「(1)相続税評価額の4倍以上の価格での不動産購入」については、確かに都心の商業地などでは路線価の4倍以上が実勢相場であることもあるが、多くの土地は商業地でも路線価の2倍、高くてもせいぜい3倍程度である。
こうした情勢を見て、国税側が「4倍」を一つの目安として捉えている可能性がある。
次に、「(2)不動産購入から3年以内の相続発生」についてである。
「3年」に明確な根拠条文があるわけではないが、財産評価基本通達では 被相続人が所有する非上場株式を「純資産価額方式」という方法で評価する際、相続開始から3年以内に取得した土地については通常の取引価格に相当する金額、すなわち時価で評価することになっていることから、3年が一つの目安となっている可能性がある。
対策は長期で計画的に
最後に、「(3)相続が発生してから1年以内の不動産売却」である。
相続開始から3~5年間は税務調査が行われる可能性があると言われていることもあり、相続税評価額と売却価格に大幅な乖離があると、国税の目に留まりやすい。
特に、相続発生前3年以内に購入して発生後1年以内に売却すれば、不動産取得のそもそもの目的が相続税の圧縮にあるとして、租税回避行為と見なされる危険性が高い。
そもそも、不動産を活用した相続対策とは、ごく短期間にいきなり実行するものではなく、長期間にわたって計画的に取り組むべきものである。
不動産経営事業の一環として複数年にわたり比較的少額の物件を購入していけば、国税側から否認されるリスクを減らすことができる。
不動産業者は一度にまとめて高額な物件を取引させたいものだが、そうした意図を不動産業者に正確に理解してもらう必要がある。
相続対策は納税資金対策、節税対策、遺産分割対策が3本柱と言われているが、筆者はこれに承継対策を加えた「3+1」の対策を提唱している。
承継対策とは相続対策に相続人など後継者を巻き込み、相続対策の情報やノウハウを引き継がせることを指す。
こうした情報などが後継者と共有されていれば、相続発生後すぐに不動産を売却したりせず、否認という悲劇を防ぐ可能性を高めることができるのである。
(萩原岳・アプレ不動産鑑定代表取締役)
(本誌初出 国税側が否認する相続税評価 不動産の「4・3・1の法則」に注意=萩原岳 20210316)