経済・企業トヨタの行方

テスラの台頭、GAFAの進出にもかかわらず、「最後はトヨタが勝つ」と言える理由

世界中で数多くのトヨタ車が販売されている(米ユタ州)
世界中で数多くのトヨタ車が販売されている(米ユタ州)

トヨタ自動車が新たな創業に乗り出した。

今年1月には次世代技術開発などを担う事業体として「ウーブン・プラネット・グループ」(WPG)を立ち上げ、その事業の一環として2月には静岡県裾野市で実証実験都市「ウーブン・シティ」にも着工した。

こうしたトヨタの戦略の延長線上には、世界規模で今日の産業界を席巻するGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)、さらにテスラなど、いわゆる米国の「ビッグテック」企業の存在が念頭に置かれている。

WPGは自動運転技術をはじめ先端技術の実用化を目指すウーブン・コア、将来有望な技術を擁するベンチャーに投資するウーブン・キャピタル、ウーブン・シティを担うウーブン・アルファと、これら3社の持ち株会社ウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)の4社からなる。

ウーブン・コアは旧トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI─AD)の事業を引き継ぎ、ウーブン・プラネット・HDにはトヨタのほか豊田章男社長も出資する。

豊田社長は2019年、トヨタをクルマを作る会社から、モビリティー(移動体)に関わるあらゆるサービスを提供する「モビリティー・カンパニー」に進化させると宣言した。

WPGの立ち上げもこの宣言に沿ったものだが、トヨタが既存の自動車メーカーの枠組みを超えて新たな創業を決断した背景には、ビッグテックが収益急拡大で得た豊富なキャッシュを使い、いよいよクルマの領域へも侵攻し始める気配を感じたからであろう。

グーグルでは、親会社アルファベットの傘下にあるウェイモが、自動運転技術の開発を担う。

その走行実験での総距離は実に980万キロ(19年実績)に及ぶ。

自動運転の技術開発では、自社が持つOS(基本ソフト)「アンドロイド」をクルマにも搭載して、プラットフォームの拡張を狙っている。

走行するクルマから得ることができるビッグデータには、新サービスやビジネスを生み出せる魅力が詰まっている。

研究開発費に大きな差

自動運転EV(電気自動車)の開発を進めるアップルを巡ってはここ最近、既存の自動車メーカーとEV製造に関する交渉を打診しているのではないか、との報道が目立っている。

世界中のアップル製品ファンが待ち望む、いわゆる「アップルカー」が誕生すれば、自社工場を持たない自動車メーカーともなり、既存の自動車産業が守ってきた開発・生産・販売を一貫で手掛ける垂直統合体制に風穴を開けることにもなる。

EVで躍進するテスラは、21年の世界販売台数が100万台に迫り、20年の50万台弱から大幅に伸びる見込みとなっている。

イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は昨年9月、30年早々に現在のトヨタの2倍に相当する年間販売2000万台到達を目標に掲げた。

フェイスブックにはいまだ明確な自動車事業への関心を見いだせないが、アマゾンは配送での活用も念頭に新興EVメーカーへの出資などを行っている。

現在の株式市場におけるトヨタとビッグテックの評価には大きな差がある。

株式時価総額(今年2月時点、日本円換算)では、アルファベット(グーグル)が140兆円、アマゾン166兆円、フェイスブック80兆円、アップル223兆円に対して、トヨタが26兆円である。

テスラも71兆円とトヨタの2・7倍にのぼるが、テスラの販売台数はトヨタ車(ダイハツ、日野を含む)952万台(20年)の5%程度にすぎない。

この背景には、米ビッグテックが持つ高い成長への投資家の期待が一因にある。

株価の割高・割安を測る指標の一つである株価売上高倍率(PSR、時価総額÷年間売上高、高いほど割高)を見ると、トヨタ1・7倍に対して、アルファベット(グーグル)が7・0倍、アマゾン4・2倍、フェイスブック8・2倍、アップル6・9倍、テスラは実に21・1倍にもなっている(図)。

成長期待の根拠である研究開発費の規模(20年度実績)をみると、アルファベット(グーグル)が3・0兆円、アマゾン4・6兆円、フェイスブック2・0兆円、アップル2・0兆円に対して、トヨタが1・1兆円(会社計画)である。

テスラは1600億円と少ないように見えるが、売り上げの伸びに応じて早々に1兆円に届くだろう。

ビッグテックは積極的に企業買収を行っている点も、株式市場では「成長にスピード感がある」として好感されている。

創造性を生み出せるか

トヨタがビッグテックに打ち勝つチャンスはあるのか。

現時点で公開されている各社の情報や報道などを参考として想定されるシナリオの一つではあるが、その可能性はあると考える。

ビッグテック自身が今後、成長鈍化という壁に直面することに加え、人命に直結する自動車事業の安全性ではトヨタに一日の長があるためだ。

ビッグテックの成長に対する脅威となっているのは、

(1)先進諸国における高い市場占有率やデータ取り扱いなどの独占状態に対する規制強化、

(2)将来の成長に障壁となるであろう米国と対峙(たいじ)する中国の存在

──である。

つまり、ビッグテックはあまりにも巨大になりすぎたために、今後は各国の規制強化などの影響を受けて成長スピードは鈍化せざるをえない。

また、競合分野における中国企業の急成長も鈍化の要因となりうる。

また、ビッグテックにとっての自動車事業への参入は、安全性に関わる社会的な製造者責任という新たなリスクを抱えることになる。

そのため、自動車事業で今後、抱えることになるリスクと期待される収益性の検討に悩むことになろう。

この点で、今日1億台を優に超える数のトヨタ車が世界中を走っている事実は重く、ビッグテックにとっての新たなリスクはトヨタには存在しない。

トヨタはすでに収益性の高いグローバルな生産・販売網を築き上げ、電動化や自動運転技術、水素燃料電池などの開発でも競争力を保持する。

ウーブン・シティは、クルマの進化だけでなく都市データに関するプラットフォームの構築と事業化も視野に入れている。

これらはビッグテックもまだ事業化していない領域であり、モビリティーに強固な事業基盤を持って異業種ともパートナーシップ構築を進めているトヨタに勝機は十分にある。

今後のトヨタにとって重要になるのは、創造力あふれる組織や人材を育成し、パートナー企業と適材適所で柔軟な分業体制を構築するための挑戦である。

(杉浦誠司・東海東京調査センター企業 調査部長兼シニアアナリスト)

(本誌初出 対GAFA、テスラ それでもトヨタに勝機はある 安全性、収益性に一日の長=杉浦誠司 20210316)

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