「女性の人権」を過剰に振りかざすのは「魔女狩り」だ(小林よしのり)
世論調査によると、2月7日以降の緊急事態宣言延長には国民の9割が賛成している(1月29~31日、日本経済新聞社・テレビ東京調査)。
しかしその結果、経済が萎縮して真っ先にしわ寄せを受けるのは女性である。
ある主婦はストレスをためた夫の家庭内暴力(DV)に耐え、あるシングルマザーは失業して「パパ活」という売春で子育てし、あるいはホームレスになったり、自殺したりしている。
昨年7~10月のいわゆる「第2波」の時期には、女性の自殺率が前年比37%の上昇で男性の約5倍、20歳未満の子供の自殺率は49%上昇と激増しており、今後表れるであろう今回の緊急事態宣言の影響が非常に懸念される。
だがコロナの恐怖に駆られたら、女性の人権など気にしちゃいられない。
もっと自粛を、もっと女性を自殺に追い込めというのが世論である。
ところが森喜朗元首相が女性蔑視失言をしたら、世論は東京五輪・パラリンピックの組織委から森を追放するまで絶対に許さない。
集団リンチで時代遅れの老人に石を投げ、肺がんを患い、人工透析を受けながら無償で五輪開催の調整をしてきた功労者を掃いて捨てたのである。
大衆は目の前のコロナ禍の女性の人権は無視して、男女平等という「理念」だけを守るのが正義と信じ込んでいる。
理念さえ唱えていればよく、実態には何も興味がないのである。
わしは女性活躍の時代を願うし、クオータ制にも賛成である。
だが、女性の人権という理念を原理主義にして、「ポリコレ棒」を振り回して(公平性を理由にした攻撃)魔女狩りをするだけの狭量な行動で、破壊以外の成果を生み出せるのだろうか。
民主主義は、フランス革命の出発点から集団ヒステリーだったことを忘れてはならない。
(小林よしのり・漫画家)
(本誌初出 小林よしのりの闘論席 20210309)
本欄は、池谷裕二(脳研究者)、片山杜秀(評論家)、小林よしのり(漫画家)、古賀茂明(元経済産業省官僚)の4氏が交代で執筆します。