中国共産党が神経をとがらせる「外資の中国離れ」の真実
中国経済は2020年、コロナ禍の中でプラス成長(前年比2・3%増)を果たした。
これについて語る現地の当局者やメディアの言葉は自信に満ちていたが、別の「ある統計」については自信に加え、ある種の安堵(あんど)感が漂った。
それは、外資の対中投資額が前年を上回ったことである。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、20年の世界の対外直接投資(FDI)は前年比42%減の8590億ドル(約90兆円)に落ち込んだ。
その中で中国は同4%増の1630億ドル(約17兆円)を受け入れ、米国を抜いて世界最大の受け入れ国となった。
中国の統計でも20年のFDI受け入れは同4・5%増の1443億ドル(約15兆円)と過去最高を記録。
今のところ、米中摩擦やコロナ禍は、外資企業にとっての中国市場の魅力や生産拠点としての競争力を大きく損ねていないことを示しており、それが中国の当局者らの安堵感につながっている。
中国商務部は、20年の中国のFDI受け入れ状況の要点を
▽全体の98%を占める上位15カ国・地域からの投資が前年比6・4%増(人民元ベース、以下同)と堅調だった▽オランダ(前年比47・6%増)や英国(同30・7%増)が大きく伸長▽サービス業が全体の77・7%▽東部沿岸部向けの投資が全体の88・4%を占めた
──などと説明している。
20年発表の外資の中国案件では、独フォルクスワーゲンやトヨタの電気自動車(EV)工場投資、ホンダや独メルセデス・ベンツの中国電池メーカーへの出資、モルガン・スタンレーの証券合弁事業への追加出資、米ウォルマートやローソンの積極出店計画など、EVや金融、小売業が目立った。
ストックでは米国優位
ここで日本のFDI統計を見ると、20年の対中投資は前年比5・2%減の1・28兆円。
最大の投資先である米国向けは同3・9%減の5・19兆円だった。
19年末時点のFDI残高は中国向けが13・91兆円(全体の7・2%)、米国が56・57兆円(同29・3%)で、近年は中国向けの投資が堅調であるものの、フロー、ストックともになお米国が圧倒的に大きい。
一方、米国の19年末時点のFDI残高は欧州向けが3・57兆ドル(全体の59・9%)と突出。中国は0・11兆ドル(同1・9%)にとどまる。
世界全体のFDIもストックベースでは19年末時点の残高36・47兆ドル(約3848兆円)のうち、米国向けが9・46兆ドル(約998兆円)なのに対し、中国向けは1・76兆ドル(約186兆円)と大きな開きがある。
UNCTADは世界のFDIは21年も縮小が続くと予測。
一方で中国国内では、
(1)コロナ禍の抑制
(2)対外開放の深化(20年はRCEP署名や中国─EU投資協定基本合意を実現)
(3)投資環境の改善進展
──により、外資の対中FDIは21年以降も安定的に推移する、との議論が目立つ。
今後もフローベースでは中国が米国を上回る年が出てくる可能性があるが、ストックのギャップを大きく縮めるのは容易ではない。
それには中国が、単に国内市場を大きくするだけではなく、市場の公平性や透明性、自由度を一層高める必要があり、 なお国内でくすぶる「外資の中国離れ」への懸念を払拭(ふっしょく)する鍵も、そこにかかっている。
(岸田英明・三井物産〈中国〉有限公司シニアアナリスト)
(本誌初出 世界最大の対外投資受け入れ国に “米中逆転”は続くのか=岸田英明 20210309)