経済・企業

投資家のEV熱が冷めた?突如起こった「EV株暴落」の深い理由

前日比1200円を超える下げ幅となった日経平均株価の終値を表示する電光掲示板 東京・中央
前日比1200円を超える下げ幅となった日経平均株価の終値を表示する電光掲示板 東京・中央

2021年2月22日、23日の両日、アメリカ市場に上場されているEV関連株が軒並み大幅ダウンを記録し、関係者に衝撃が走った。

まず「EVの盟主」テスラ(TSLA)が2日間で11%も株価が下落。

「中国のテスラ」NIOが11%ダウンで続き、「テスラのライバル」フィスカー(FSR)が9%ダウンを記録した。

その他の新興ベンチャーに至っては、下落幅はもっと著しい。ローズタウン(RIDE)の株価が20%下落し、ワークホース(WKHS)は実に50%も株価を下げた。

また、EV本体ではないが、EV用全個体電池を開発中のクアンタムスケープ(QS)が11%の下落、EVトラック用のパワートレインを製造するハイリーオン(HYLN)の株価も7%下落した。

意外だったのは、高級EVを開発中のルーシッド(Lucid)との合併を決定したばかりのCCIV(Churchill Capital IV)の株価が、実に67%も下落したことだ。

株価正常化への第1歩!?

今回のEV株急落について、アメリカの証券アナリスト達はいくつかの理由を挙げている。

まず、EV市場における競争激化が理由の一つとして挙げられている。

また、ハイテク株を含む「高成長」株の持ち分を減らし、リスクを分散しようとする投資家心理も影響しているとされる。

つまり、EV業界特有の構造的な問題が原因ではなく、株価高騰を受けての調整売りの側面があったというのだが、実際、同時期にEV関連株以外でも、大きな下落があった。

特にペイパル(PYPL)とドキュサイン(DOCU)などは、2日間で8%も株価を下げている。

筆者は、現在のEVブームを必然の流れと考えているが、その一方で、株価の異常な急上昇については修正必至と見ていた。

従って、今回の急落は想定通りで、むしろ、もっと大幅な修正が必要と考えている。

テスラとCCIVの2社を取り上げ、その株価がはたして正当な水準なのか、それとも期待含みで買われすぎているのか、検討してみたい。

まずは、テスラの株価について。

終わり値ベースでこれまでの最高値は今年1月26日の883.09ドル。その時点での株式時価総額は日本円で約88兆円、GMの11倍強だった。

2020年の生産台数約50万台のテスラが、同700万台程度(推定)のGMの11倍というのはどういう指標を用いても正当化は不可能だ。買われすぎを疑うレベルである。

もちろん、「将来の業績を先取りしている」というのが株価が値上がりしている理由としてあるわけだが、それでも、現在約1000万台を生産・販売する「ガソリン車の盟主」トヨタの時価総額、約26兆円が上限ではないだろうか。

となると、テスラの株価は290ドル程度、ピーク時の3分の1が適正水準ということになる。3分の1というと非常に大きな下落のようだが、これは、2020年8月当時のテスラの株価にすぎない。

それでもEV株の上場が続く

次に、2日間で株価が33%も下落したCCIVについて見てみよう。

CCIVの株価が下落した理由は、本連載でも何回か説明しているSPAC(特別目的買収会社、Special Purpose Acquisition Company)が決まったことによる。

このSPACを通じて、比較的容易に株式上場が実現するため、目下大流行している手法だ。

今後順調に進めば、CCIVは今年第2四半期に現在未上場のルーシッドと合併し、社名をLucidに変えた上で、ニューヨーク証券取引所(NYSE)で取引されることになる。

これが23日に発表されると、CCIVの株価は急落した。

普通、合併が決まればその期待感から株価は上昇するはずだ。

実際、1月上旬には10ドルだったCCIVの株価は、SPACによる合併の噂が出回り、急落直前の2月18日に終わり値ベースで58.05ドルと、1カ月半で5.8倍も上昇していた。

それが、「ようやく実現」した途端に急落したというのは、まさに「噂で買い、実現で売り」という法則(?)が具現化された形だった。

暴落の理由はいろいろありそうだが、最大の理由はルーシッドの企業価値が過大評価されているという懸念のようだ。

現在の評価に基づくと、合併が成立した後の新会社の計算上の時価総額は、約640億ドル(約6兆7000億円)にも上るという。

GMの時価総額760億ドル(約7兆9000億円)と比較すると、まだ1台も生産していないベンチャーの価値としては、いくらなんでも高すぎる。

マネーゲームが限界を超え、投資家が急に冷めてしまったというところではないか。

元テスラ副社長が率いるEVベンチャーの実力

とは言え、ルーシッド社自体は「テスラのライバル」として大きな注目を集めており、同社が2021年後半に発売予定の最初のEVであるルーシッド「エア(Air)」も高い評価を得ている。

Lucid「Air」
Lucid「Air」

ルーシッドは、2007年にAtieva(アティーバ)という旧社名で創立され、筆者もマークしていた会社だ。当時の本業はEV用のバッテリーとパワートレインの製造である。

同社は最初からテスラとの因縁が深かった。まず、創業者の一人は元テスラの副社長兼役員であったバーナード・ツェー氏。

さらに、2013年には、元テスラ副社長で「モデルS」の技術主任だったピーター・ローリンソン氏がCTOとして参加。

2016年10月には社名を現在のルーシッドに変え、EV製造に乗り出すと発表した。

ローリンソン氏は、その後、2019年にCEOに就任したのだが、彼のテスラへのライバル意識は相当に強そうだ。

彼はテスラの「モデルS」は「EVの最高級車」というには不足であり、ルーシッド「エア」こそが、「ベンツSクラス」に匹敵するEVであるとコメントしている。

筆者は、「超高級車」には全く関心がないが、「エア」の航続距離が量産車として初めて800kmを超える点には注目している。このことについては、別途コメントするつもりだ。

雨降って地固まるか、流されるか

今回の株価急落はアメリカで過熱するEVブームへの冷や水であり警告だと考える。

これを機に、ベンチャー企業の淘汰の動きが進むだろう。今回のような急落があっても素早く立ち直る企業とそのまま低迷する企業で明暗が分かれるはずだ。

実際、2日続落後の24日には、テスラ、NIO、フィスカー、QSなどが軒並み反騰したのに対し、ワークフォースとCCIVは続落し、3日間合計では、それぞれ57%、46%も低下している。

試練を生き抜くのはどのベンチャーか。また、この機に既存メーカーの巻き返しが成功するかどうか。EVウォーズはいよいよ本番だ。

村沢義久(むらさわ・よしひさ)

1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

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