経済・企業

「航続距離800キロの中国製EV」は世界を席巻するか

NIO 「ET7」
NIO 「ET7」

EVの普及加速化のためには航続距離の延長と充電時間の短縮、それから電池の低コスト化が急務だ。

それら全てを可能にすると期待されている技術が「全固体電池」。

これまで「実用化間近」というニュースが度々流れながら、ウヤムヤになるケースがほとんどだった。

しかし、最近、中国のNIOが2022年に量産車に搭載するという具体的な計画を発表して業界を驚かせた。その一方で、従来型のリチウムイオン電池の改良も大幅に進んでいる。

中国のNIOがEV業界のトップに!?

EV業界で2020年に一番注目されたメーカーといえば、中国のNIOをおいてほかにないだろう。

そのNIOが2021年1月9日に開かれた「NIO Day 2020」で衝撃的な発表を行った。

2022年第1四半期に発売予定の「ET7」が、何と容量150kWhの全固体電池を搭載し、航続距離1000km超を実現するというのだ。

ただし、発売当初の「ET7」の電池容量は70kWhと100kWhの2種類であり、150kWh型の導入は「1年先」という。

つまり、最初に小型の(と言っても十分に大きいが)電池を搭載した「ET7」を発売しておき、大型電池が完成した段階で、すべての所有者がアップグレードできるようにするという戦略のようだ。

筆者は、最初に出る70kWhと100kWhの電池は従来型になるのではないかと感じている。

中国メーカーを信用しないということではなく、全固体電池の実用化が非常に難しいと思っているからだ。

それでも、仮に1年遅れの2023年に実用化されても、おそらく世界初の全固体電池車となるだろう。

それはNIOのポジションを押し上げるとともにEVの普及を一段と加速すると見て間違いないだろう。

気になるのは同社に電池を供給するメーカーだ。

現在NIOのEVに電池を供給しているのは中国のCATL。今回も同じと考えるのが自然だが、同じ中国のBYDという見方もある。

いずれにしても、全固体電池を完成させれば、バッテリー産業のリーダーとして君臨することになる。

ガソリン車を越える航続距離に?

NIOが発表した1000キロという航続距離は緩い基準に基づくもので、一番厳しいアメリカ「EPA基準」では875キロ。

これでも、「モデルS」の647キロを3割以上上回り、ガソリン車と同等以上の性能だ。

現時点で量産EVに搭載されている最大のバッテリー・パックはテスラ「モデルS」「モデルX」などの100kWhのものだ。

これを150kWhまで大型化すると、サイズ、重量とも1.5倍になり、普通のセダンやSUVでは搭載不可能となる。

しかし、NIOの全固体電池は、エネルギー密度を従来型の1.5倍に向上することで、重量・容積問題をクリアする。だからNIOのEVは航続距離が長くできるのだ。

全固体電池は、当初は割高かも知れない。しかし、NIOはバッテリー交換方式を採っているので、ユーザーがバッテリーを所有せずシェアするという買い方で、初期負担を何割か減らすことも可能だろう。

テスラ、GMは当面従来型の改良で凌ぐ

一方、GMとテスラは従来型リチウムイオン電池の改良型を発表している。

GMは2020年5月19日、韓国のLG化学との合弁で設立した「Ultium Cells LLC」が、オハイオ州ローズタウンで次世代バッテリーシステム「Ultium(アルティウム)」生産工場の建設に着手したと発表した。

「アルティウム」は全固体電池ではなく、従来のリチウムイオン電池を大幅に改良することによって、大容量・低価格を実現しているようだ。

容量的には最大200kWhのものを用意。また、価格は1kWh当たり100ドル以下に下げるという。この価格は「ボルトEV」に搭載されているバッテリーより3割も低い数字だ。

「アルティウム」電池が最初に搭載されるのは「ハマーEV」で、生産は2021年秋に始まるらしい。

オリジナルの「ハマー」は1999年から3つのバージョンが順次発売されたが、その1つ「H1」はアメリカの軍用車両をベースにしたものだ。

大きな話題になったが、2009年のGMの破綻・国有化の際に生産終了してしまった(新生GMは2010年11月18日に、ニューヨーク証券取引所に再上場を果たしている)。

「ハマー」と言えば、2017年にアーノルド・シュワルツェネッガー氏がオーストリアのベンチャー企業にEV化(コンバート)させて注目されたが、今回GM純正EVとして正式にデビューすることになったわけだ。

以前GMは「ボルトEV」をテスラの「モデル3」キラーと位置付けながら惨敗しているのだが、今回も「ハマーEV」の最大のライバルはテスラの「サイバートラック」になるようだ。

シボレー・ボルト EV (Wikipediaより)
シボレー・ボルト EV (Wikipediaより)

そのテスラも従来型リチウムイオン電池の改良を目指しており、2020年9月22日に開催された「Battery Day」で、低コストのリチウムイオン電池の内製化にめどをつけたと発表した。

テスラは、その低コストバッテリーを使って、価格2万5000ドル(約260万円)程度のEVを2023年までに市場投入する計画だという。

実際、上海工場で生産予定の新車種は、価格が15万~20万元(約240万~320万円)になるようだ。

全固体であるかどうかに関わらず、ここにきてリチウムイオン電池が新たなレベルに上がりつつあり、EVの普及が一気に加速することは間違いない。

それにつけても、こういうトップ争いに日本勢の名前が出て来ないのは非常に寂しいことだ。

特に、自ら全固体電池を開発中のトヨタには、普及の見込みのないFCVなどは棚上げし、次世代EVの開発に集中してもらいたいのだが。

村沢義久(むらさわ・よしひさ)

1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

8月23日号(8月16日発売)

電力危機に勝つ企業12 原発、自由化、再エネの死角 オイルショックを思い出せ ■荒木 涼子/和田 肇15 電力逼迫を乗り越える 脱炭素化が促す経済成長 ■編集部16 風力 陸上は建て替え増える 洋上は落札基準を修正 ■土守 豪18 太陽光 注目のPPAモデル 再エネは新ビジネス時代へ ■本橋 恵一2 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事