マーケット・金融円高が来る!

コロナ給付金を若者がつぎこんだ?今になって「ビットコインが史上最高値」をつける理由

高騰するビットコイン(Bloomberg)
高騰するビットコイン(Bloomberg)

代表的な仮想通貨(暗号資産)であるビットコイン価格は今年1月7日(米東部時間)、4万ドルの大台を初めて突破し、一時は4万2000ドルに迫る場面もあった。

わずか1カ月で2倍以上となる暴騰を演じたが、わずか4日後には一時、3万ドル近くまで急落するなど、相場変動が激しくなっている。

1月末時点では3万2000ドル前後での推移を続けているが、さらに一段と上昇するとの見方が強まっている。

昨年からのコロナショックでは、3月に一時3850ドルまで落ち込んだビットコインだが、7月には1万ドルを回復した。

ビットコイン市場を押し上げたのは、IT系企業や年金マネーによる巨額投資だ。米IT企業のマイクロストラテジーは昨夏、4億ドルもの資金を投じてビットコインを購入し、市場を驚かせた。

その後もマスミューチュアル生命保険が1億ドル、決済アプリ大手スクエアが5000万ドルなど巨額の投資が相次ぐ。

機関投資家の利用が多い仮想通貨ETF(上場投資信託)のグレイスケールには昨年第4四半期(10~12月)だけで20億ドルの資金が流入した。

機関投資家の参入は、日中韓の個人投資家が主体だった2017年バブルとの大きな違いであり、今回の上昇劇のスケールの大きさを示している。

個人投資家も相変わらず活発だが、今回の主役は米国人だ。市況回復に図らずも手を貸すことになったのが、米政府のコロナ対策だった。

1200ドルのコロナ給付金を受け取った米国の若者は、スマートフォン片手に株式市場へ参入したが、同様の現象がビットコイン市場でも起きた。仮想通貨取引所へ1200ドルちょうどの入金が相次いだのだ。

スクエアやペイパルなどの決済アプリではビットコインが購入できる。給付金だけでなく、コロナ禍で身近になった非接触型の決済アプリがビットコインへの資金流入につながった面もあろう。

政府からの高まる圧力

昨今のビットコインの動きで目立つのは米ドルの価値との逆相関だ。

複数の主要通貨に対するドルの価値を示すドル・インデックスは昨年、コロナショック以降に下落トレンドが始まり9月に一服、米大統領選を通過した11月から下落が再開した。この動きはビットコインと正反対だ。

ビットコインは今年1月8日に史上最高値をつけて反落した一方、ドル・インデックスは反転上昇しており、今年も逆相関の関係は続いている。

高まる仮想通貨の存在感に対して政府の警戒感も高まっている。

米フェイスブックが発表した仮想通貨リブラは、19年の米議会での公聴会などを経て、計画を大幅に縮小され、名称も「ディエム」(Diem)へと変更された。

当初は米ドルやユーロ、円など6通貨のバスケットに連動する計画だったが、米ドル単体に連動する形でのスタートになるという。

昨年12月には米証券取引委員会(SEC)が「仮想通貨で時価総額3位のリップルは“有価証券”に当たる」として提訴した。これを受けてリップルの上場を廃止する取引所が相次ぎ、リップル価格は70%の暴落となった。

仮想通貨抑え込みの一方、中央銀行自らが発行するデジタル通貨「CBDC」(中央銀行デジタル通貨)の動きが活発化している。

CBDCで先行する中国は昨年末、深圳市でデジタル人民元の実験を開始した。市内店舗で利用できるデジタル人民元を市民へ配布するプロジェクトである。また、日本銀行も21年度中に実証実験を開始する予定だ。

CBDCのメリットは、法定通貨と価値を連動させることで仮想通貨の荒い値動きを回避しながら決済や送金をスムーズに行えることにある。

しかし仮想通貨市場では法定通貨と価値を連動させた「ステーブルコイン」と呼ばれる通貨が既に普及している。米ドルと連動させたテザー(USDT)が代表格だ。ステーブルコインに対する優位性をどう確立するか、CBDCの課題となるだろう。

仮想通貨への規制の難しさは、仮想通貨内でキーワードとなっている「DeFi」(ディーファイ、分散型金融)からもうかがえる。

運営主体不在の分散型金融サービスの台頭はめざましい。代表的なサービスである「DEX」(分散型取引所)の出来高は国内最大手のビットフライヤーを凌駕(りょうが)するまでに成長した。DEXは運営拠点を持たず、どこの国への金融庁登録もないため、規制は困難だ。

17年との相似も

仮想通貨は政府とのせめぎ合いを続けながらも、今後も需要を高めていきそうだ。

機関投資家の動きはまだ米国内に限定され、ごく一部の企業のみにとどまっている。資産運用会社最大手のブラックロックはやっと今年1月に参入を発表したばかりで、本格的な仮想通貨シフトはこれからだ。

ビットコイン価格は将来的に30万ドルや100万ドルまで上昇すると予想するアナリストも出てきている。

ビットコイン相場は過去、ビットコインのマイニング(採掘)報酬が半分になる「半減期」から、1年程度は上昇が続く傾向が見られる。

前回の半減期は昨年5月であり、ビットコイン価格の上昇はまだ続くとの見方は強い。ビットコインでは、マイニングと呼ばれる新規発行と取引承認の作業を手掛けた報酬としてビットコインを獲得できる仕組みになっている。

とはいえ足元では不安点もある。17年バブル崩壊時との相似だ。

17年にはビットコイン先物が米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)に上場したが、今年2月には仮想通貨イーサリアム先物の上場を控え、売り圧力の高まりが予想される。

17年バブル崩壊時には米長期金利が上昇したが、今回も米長期金利が年初から上昇していることも懸念材料に挙げられる。

ビットコインを含めた仮想通貨全体の市場規模は現在、約1兆ドルと、金(約10兆ドル)と比べてもまだまだ小さい。

まとまった資金の流出入が続けば、この先も相場が乱高下することもありうる。

とはいえ、機関投資家による仮想通貨への資金シフトが順調に進めば、市場の拡大を通して一段の相場上昇を演じてもおかしくない。

(高城泰・金融ライター)

(本誌初出 ビットコイン 史上最高値更新の原動力 機関投資家が巨額投資続々=高城泰 20210216)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事