経済・企業

「オリンピックまでにワクチン接種完了」はどう見ても無理そうな根本原因(松本健太郎)

    新型コロナウイルスワクチン接種会場運営訓練で行われたワクチン注射の訓練=川崎市幸区で2021年1月27日午後1時13分、梅村直承撮影
    新型コロナウイルスワクチン接種会場運営訓練で行われたワクチン注射の訓練=川崎市幸区で2021年1月27日午後1時13分、梅村直承撮影

    2月12日、菅義偉首相は新型コロナウイルス対策本部で、ワクチン接種の時期について「有効性・安全性を確認したうえで、来週半ばには接種を開始する」と表明しました。

    その後、14日に田村厚生労働大臣によりワクチンが承認されたので、17日から接種が始まる予定です。

    菅首相は「できるだけ早く国民の皆さんに接種できるようしっかり取り組んでいきたい」と述べていましたが、ではいつならワクチン接種を受けられるのでしょうか。

    ワクチンの接種は自治体の仕事

    予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律が2020年12月9日に公布されています。

    これによって、厚生労働大臣の指示のもと、都道府県の協力により、市区町村長において予防接種を実施するとなりました。

    国はワクチンの確保がメイン、予防接種実施の主体は市区町村になります。

    つまり、国がどれだけ「ワクチン接種しますよ!」「できるだけ早くしますよ!」と号令をかけても、自治体が遂行できなければ、掛け声倒れになりかねません。

    ワクチン接種の鍵を握るのは現場だということです。

    約2割の自治体が「年内に終わらない」と回答

    そうした現状を踏まえて、JX通信社は新型コロナワクチン接種の準備状況に関するアンケートを、全国の市区町村1,741の自治体に対して実施しました。

    2021年2月13日現在、662自治体から回答があったようです。

    アンケートの結果、自治体の住民全員が2回ワクチン接種を受けるという想定で、全員の接種が終わる時期として「年内には終わらない」を選んだ自治体は110と有効回答数の約23%を占めることが明らかになりました。

    また、全員の接種が終わる時期として、東京オリンピックの開催が予定されている2021年7月より前の時期を選んだ自治体は12と、有効回答数の約2%に過ぎませんでした。

    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答152自治体を除く485510自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答152自治体を除く485510自治体が分母となる)

    ちなみに、回答がもっとも多いのが「9月」です。

    高齢者へのワクチン接種が優先的に始まるのが「4月」ですから、国の思惑とは裏腹に、少なくとも半年かかると見込んでいる自治体が多いということです。

    ワクチン接種はそれくらいの大事業なのです。

    いったい現場では何が起きているのでしょうか。

    JX通信社の実施したアンケートの結果を引用しつつ、新型コロナワクチン接種の準備状況について、現状を報告してみます。

    「接種会場と医師・看護師の手配」が進んでいない

    新型コロナウイルスのワクチン接種に必要なのは、「ワクチン」だけではありません。

    接種するための会場、そして接種を担当する医師・看護師も必要です。

    これらは各自治体が調整する必要があります。そこで、調整の進捗状況について聞いてみました。

    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答4自治体を除く65833自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答4自治体を除く65833自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答12自治体を除く65025自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答12自治体を除く65025自治体が分母となる)

    ワクチン接種会場が「すべて決まった」と回答した自治体は、わずか約8%でした。

    また、接種を担当する医師・看護師が「すべて決まった」と回答した自治体はさらに減って、たったの約3%しかありませんでした。

    両方とも「すべて決まった」と回答した自治体は12のみ、約2%です。

    逆に、両方とも「まったく決まっていない」と回答した自治体は135、約21%もあります。

    ちなみに、接種会場として想定する施設として、もっとも多いのが市民会館などの公共施設、次に病院・診療所、そして体育館など学校施設でした。

    公共施設と病院・診療所を併用する自治体が多いようです。

    なかには営業中の商業施設や空き店舗の一部を間借りして会場とするケースも確認できました。

    ワクチン「以外」の物資は現場の負担?

    これはあくまで現時点での想定で、今後、さらに接種会場の拡大や、医師・看護師の増員も考えられます。

    とはいえ、接種会場も、医師・看護師も、自治体の責任と負担になります。各自治体で対応能力に差がつくのは致し方ありません。

    それにしても、ワクチン以外の「補給」は現場でなんとかしろ、というのも酷な話という気がします。

    せめて詳細なスケジュール、ワクチン支給時期、供給量といった、適切な情報が現場に共有されるべきでしょう。

    しかし、後でみるように、アンケート結果によれば、国からはほとんど「情報が降りてこない」ようです。

    アンケート回答時点ではまだワクチンも未承認だった、という「建前」もあったかもしれません。ですが、スムーズな接種を実現することこそ重要なはずです。「建前」がその妨げになるとすれば、問題ではないでしょうか。

    「65歳以上は4月から」も疑わしい?

    新型コロナウイルスのワクチン接種について、国は65歳以上の高齢者向けの接種開始時期を「4月以降」としています。

    そこで、各自治体では実際に4月以降にワクチンが接種可能かを聞きました。

    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答8自治体を除く65429自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答8自治体を除く65429自治体が分母となる)

    「可能」と回答した自治体は、半数を超えて約56%でした。

    もっとも、接種会場や医師・看護師についての回答から考えると、「完全では無いけれど、とりあえずは始められる」ような状況ではないかと推察されます。

    実際、「可能」と回答した自治体のうち、接種会場が「まったく決まっていない」と回答した自治体は40で約6%、「一部決まった」と回答した自治体が274で約43%を占めます。

    また、接種を担当する医師・看護師が「まったく決まっていない」と回答した自治体が121で約19%、「一部決まった」と回答した自治体が219で約34%を占めます。

    これらの結果から、4月から接種が「可能」という回答は、「宣言」「意気込み」のようなものであって、裏付けとなる人や場所の確保は進んでいないことが明らかです。

    ちなみに、「遅れる可能性がある」「まだわからない」と答えている自治体も、最も遅いケースで6月ごろには始められると回答しており、あと数カ月のうちに急速にオペレーションが確立されていくとは考えられます。

    ワクチン接種、どうすれば早められる?

    冒頭で紹介した通り、「年内には終わらない」を選んだ自治体は110、全体の約23%を占めています。

    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答152自治体を除く485510自治体が分母となる)
    (JX通信社の調査より。有効回答数662自治体のうち非回答152自治体を除く485510自治体が分母となる)

    遅くとも6月にはワクチン接種が始まるのに、なぜ「半年以上かかる」という声が多く出ているのでしょうか。

    その理由として、情報提供の不十分さ故にスケジュールを詳細に落とし込めないからだと考えられます。

    自治体からは「ワクチンがいつ届くのかわからない」「ワクチンの供給スケジュールが知らされていない」といった時間に関する問題、「ワクチン接種円滑化システム(VーSYS)の操作方法がわからない」といったシステムに関する問題、「報道で詳細を知る」といった情報連携に関する問題、その他にもワクチン自体の説明、補助金に関する説明、集団接種のレイアウトが現実的では無いなど、多種多様な声が寄せられました。

    こうした諸問題を抱えたまま、ワクチン接種をつつがなく終えるのは、相当難易度の高いオペレーションではないかと考えます。

    日本は先進国(G7)と比較して感染を抑えられているものの、唯一、ワクチン接種が始まっていない国でした。

    コロナ禍の終息には集団免疫を獲得する必要がありますが、その手段として期待されているのがワクチン接種。遅れれば遅れるほど、コロナ禍の終息も遅れるのです。

    「コロナに勝利した証」として東京オリンピックを開催するためには、ワクチン接種のスピードを早めるため、様々な有識者もまじえて、政府は知恵を絞るべきではないでしょうか。

    現状を「仕方がない」といってスルーしてしまうと、オリンピック開催はおろか、第4波、第5波の到来を招きかねません。

    ・アンケート結果の詳細

    アンケート回収期間:2021年1月29日〜2021年2月13日

    アンケート対象:全国1,741自治体

    アンケート回答:662自治体

    松本健太郎(まつもと・けんたろう)

    1984年生まれ。データサイエンティスト。

    龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを〝学び直し〟。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心にさまざまなデータ分析を担当するほか、日経ビジネスオンライン、ITmedia、週刊東洋経済など各種媒体にAI・データサイエンス・マーケティングに関する記事を執筆、テレビ番組の企画出演も多数。SNSを通じた情報発信には定評があり、noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メンバーとしても活躍中。

    人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)『データから真実を読み解くスキル』(日経BP)『誤解だらけの人工知能』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書) 『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)など著書多数。

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