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首相の被爆地あいさつが広島・長崎で酷似するのは仕方ないのか約25年分調べた結果
2020年8月6日の広島市平和記念式典、8月9日長崎原爆犠牲者慰霊平和記念式典それぞれで安倍首相が読み上げたあいさつ文が「よく似ている」と話題になりました。
あいさつ文は本当に流用されていたのか? また流用は安倍首相だけが責められるべきなのか?
新刊『人は悪魔に熱狂する』を上梓したばかりのデータサイエンティスト、松本健太郎さんが分析します。
本当に「どうしても同じになってしまう」のか?
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「どうしても同じ内容に」 首相あいさつ酷似で菅氏
菅義偉官房長官は11日の記者会見で、広島と長崎の平和式典での安倍晋三首相のあいさつが酷似していたことに関し、やむを得ないとの認識を示した。「哀悼の気持ちや唯一の戦争被爆国としての立場を申し上げるのは両式典でどうしても同じような内容になる」と述べた。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62501730R10C20A8PP8000/
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そんなアホな話あるかい。
と思いつつ、安倍首相に対する心理的嫌悪感だけで拒否反応を示すのは良くないと考えて、過去遡れる分だけ遡って広島・長崎の「被爆地あいさつ」文を比較してみました。
分析手法
恣意的に判断するのは良くないと思い、なるべくロジカルに広島・長崎のあいさつ文のdiffを取りました。diff自体はこちらのWEBページで差分を見ています。
https://difff.jp/
例えば2020年あいさつ文は以下のように表示されました。
左側が広島、右側が長崎です。
青いマーカー線は、広島(長崎)あいさつが長崎(広島)あいさつと比べて登場しなかった文章です。なるほど、2020年の安倍首相のあいさつは広島、長崎ともに、だいたい白いです。つまり「ほとんど重複している」「ほとんど同じ」と意味しています。
さて、綺麗に差分をとれることもあれば、変な下りで差分なしと判定することもあります。例えば、以下一文。
【広島あいさつ】
75年前、一発の原子爆弾により廃墟(はいきょ)と化しながらも、
【長崎あいさつ】
75年前の今日、一木一草もない焦土と化したこの街が、
「一発」と「一木一草」で「一」だけ重複している、と判定しています。文脈的には違うんですけど「機会的に判定」するってそういうことなので、このまま進めます。
ただし、数字と漢数字、文脈に突如恣意的に現れる「」(カギカッコ)ある無しは除外します。
その結果、広島あいさつが長崎あいさつにどれくらい文章が重複しているか調べると「92.17%」でした。
また、長崎あいさつが広島あいさつにどれくらい文章が重複しているか調べると「93.47%」でした。
両方とも差分は7〜8%ですか。そんなことあります?
こんなに文章が似るのは安倍首相だけなのか、過去歴代政権25年分をデータがある限り遡って調べてみました。結果は以下の通りです。
機械的に、広島・長崎のあいさつ文を合算し、かつ重複数を合算して率を求めてみました。
過去を遡ってみると、以下のことが見えてきますね。
・平均をとると、広島は長崎に似やすい(約86%)。長崎はまだ似にくい、とは言えだいたい一緒(約81%)。
・一番やる気が無かったのは2006年小泉あいさつ。とにかくやる気がない。文章も年々少ない。
・一番文章が似てたのは2011年菅首相の広島あいさつ。ただし、その分だけ長崎あいさつは重複度が下がる。(2019年安倍あいさつもたいがいですが、文面を途中でテレコに変えて「重複が無いように見せかけた小細工らしきもの」を発見したので、唯一それだけ手を加えました)
・頑張ってるのは1997年橋本あいさつ、2008年福田あいさつ。
歴代首相は、広島・長崎に遠慮して、50%ぐらいは同じような文章を書かなければならないルールでも持ち回りであるんでしょうか。
今回、急に安倍首相が注目され、似たようなことを喋っている!と方面からバッシングを浴びていますが、だったら2006年に小泉首相もバッシングされるべきだったし、もっと言えば歴代首相は似たようなこと話してます。安倍首相にバイアスを持ち過ぎだとも思いました。
一方で、歴代首相に言えることでしょうが、もう少し文面を変えるべきではないでしょうか。
そして菅官房長官は仮に「哀悼の気持ちや唯一の戦争被爆国としての立場を申し上げるのは両式典でどうしても同じような内容になる」というコメントがその通りだったとしても、他に言い方とか考えられないのか、と思いました。コイツが首相候補とか本当どうかしている。
一応、過去約25年分のデータを以下に表示しておきます。皆さんがご自身の目でお確かめ下さい。
2020年(安倍)
2019年(安倍)
2018年(安倍)
2017年(安倍)
2016年(安倍)
2015年(安倍)
2014年(安倍)
2013年(安倍)
2012年(野田)
2011年(菅)
2010年(菅)
2009年(麻生)
2008年(福田)
2007年(安倍)
2006年(小泉)
2005年(小泉)
2004年(小泉)
2003年(小泉)
2002年(小泉)
2001年(小泉)
2000年(森)
1999年(小渕)
1998年(小渕)
1997年(橋本)
松本健太郎(まつもと・けんたろう)
1984年生まれ。データサイエンティスト。
龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で統計学・データサイエンスを〝学び直し〟。デジタルマーケティングや消費者インサイトの分析業務を中心にさまざまなデータ分析を担当するほか、日経ビジネスオンライン、ITmedia、週刊東洋経済など各種媒体にAI・データサイエンス・マーケティングに関する記事を執筆、テレビ番組の企画出演も多数。SNSを通じた情報発信には定評があり、noteで活躍しているオピニオンリーダーの知見をシェアする「日経COMEMO」メンバーとしても活躍中。
2020年7月に新刊『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(毎日新聞出版)を刊行。
著書に『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)『誤解だらけの人工知能』『なぜ「つい買ってしまう」のか』(光文社新書) 『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)など多数。