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「コロナでパチンコ屋に行かなくなった」俳優・六角精児が語る自然体の俳優哲学

    「コロナ禍でパチンコ屋に行かなくなり、ギャンブル依存が少なくなりました」 撮影=佐々木龍
    「コロナ禍でパチンコ屋に行かなくなり、ギャンブル依存が少なくなりました」 撮影=佐々木龍

    1982年の劇団旗揚げ以来、必ずしも順風満帆な俳優人生ではなかったという六角精児さん。

    出演した映画「すばらしき世界」の公開を前に、六角さんに俳優業やコロナ禍を経験して変化したことを聞いた。

    (聞き手=りんたいこ・ライター)

    「人は他人を救えないけれど、自分は自分を救える」

    「役者として順風満帆でなかった。僕を必要と言ってもらえるなら、自分ができることをやるまで」

    ── 2月11日公開予定の映画「すばらしき世界」に出演しています。この映画を見て、どんなことを感じましたか。

    六角 道を踏み外してしまったり、社会に背を向けて生きてきたりした人たちの生きづらさみたいなものが、切実に伝わってきました。

    ただ、僕はもともと、人は自分で自分を律しない限り、他人から救ってもらうことは難しいと思っています。

    もちろん世間には優しい人も、協力者もいて、その人たちから影響を受けることはできるでしょうが、最終的にはそれをエネルギーにして自分で立ち上がらなければ仕方ない。

    でも、この作品を見た時には世の中はやっぱり生きづらいということと、世の中はまんざらでもないという、その二つを感じました。

    ── その「まんざらでもない」と思わせてくれるのが、六角さんが演じたスーパーマーケットの店長・松本です。役所広司さん扮(ふん)する前科10犯の主人公、三上正夫が出所後、彼に手を差し伸べますね。

    六角 そういう役をやれたのは非常にうれしいです。

    ただ、三上は自分で立ち上がろうとしたから、あの(職場の介護施設で苦難に直面した)時、ぐっとこらえることができたんじゃないでしょうか。

    あの人はあの時点で自分から立ち上がった。人は他人を救えないけれど、自分は自分を救えるんです。この映画はそういうことを“すばらしき世界”として感じさせるものになっていると思います。

    「すばらしき世界」は、直木賞作家・佐木隆三さんのノンフィクション小説『身分帳』(講談社文庫)を原案に、映画「蛇イチゴ」(2002年)、「ゆれる」(06年) などで知られる西川美和さんが監督、脚色。殺人罪など前科10犯で服役した三上正夫が、出所後まっとうに生きようと努力する姿が描かれていく。『身分帳』は1990年の刊行だが、映画では舞台を現代に移し、人間と社会のあり方を問うた。

    「潰し」がきかない

    映画「すばらしき世界」より ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
    映画「すばらしき世界」より ©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

    ── 三上は働くことで社会とのつながりを持とうとします。六角さんにとって働くとは?

    六角 この年齢になって言えることは「達成感」だと思います。

    もちろん(お金は)たくさんもらえるほうがいいですよ。だけど我々の仕事って、例えば走る場面を演じる時、5000円の走り方と10万円の走り方の区別はできないんです。ただ一生懸命走るしかない。

    そうやって仕事を続けていって、時に困難なことにぶつかっても、それを納得いくまで落とし込んだり、自分の肉体を駆使したりしてできた演技が、少しでも作品のため、お客さんのためになったら、そこには達成感がある。

    それを得られた時の喜びが、仕事の中で僕は一番大切だと思っています。

    ── その思いで常に仕事と向き合ってきた?

    六角 そうじゃないと精いっぱいできないです。「これ、どう?」と誰かにお願いされたら、その人に喜んでもらいたいじゃないですか。それが映画だろうとドラマだろうとバラエティー番組だろうと同じです。

    そもそも僕は「俳優はこうあるべき」というものがない。だから、どんな仕事でも声を掛けられたら、とりあえずできるかどうか考えてみる。

    できるんならやる。ただ、武士役はなるべくやりたくないな。立ち回りが下手くそだから(笑)。だけど、どうしてもと言われたら、監督に「うまく撮ってね」とお願いしてからやります。

     六角さんと演技の出会いは神奈川県立厚木高校の在学時。「すぐに辞めるつもり」で入部した演劇部には、1年先輩に現在は劇作家・演出家として活躍する横内謙介さんがいた。横内さん作・演出の戯曲でたまたま主役の1人にキャスティングされ、その作品が全国の高校演劇コンクールを勝ち抜く。横内さんは早稲田大学に進学し、82年に劇団「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。六角さんも参加し、以来、数多くの舞台に出演する。

    ── 俳優でやっていこうと手応えをつかんだ作品は?

    六角 90年に「銀座セゾン劇場」(東京・銀座)で上演した「女殺油地獄」(横内謙介さん脚本)という作品です。

    ドラマ「北の国から」で著名な杉田成道さんが演出した舞台ですが、稽古のとき、毎回ダメ出しされ、演劇や舞台の難しさをつくづく感じて、本当に辞めてやろうと思ったんです。

    でもその時、30歳手前になっていて、よく考えたら運転免許も何の資格もない自分はもう潰しがきかない、芝居を続けるしかないと腹をくくったんです。

    ── 人気テレビドラマ「相棒」では、「シーズン14」(15〜16年)まで鑑識・米沢守役で出演し、知名度も上がりました。

    六角 あの役で自分のことをいろんな人に知ってもらえましたから、すごく大切な作品で感謝しています。

    ただ、僕はいつも「これでいいのだろうか」と思いながらやっていますから、世の中に顔や名前が知られるようになったことで自信がついたり、自信を持って何かをやったりしたことは、一度たりともないんです。

    自称“御用役者”

    ── 善人役から悪役まで、硬軟さまざまな役をこなしますが、演じる際に心掛けていることは?

    六角 自分の表現を通して、台本に書いてあることがしっかり伝わればいいなと思ってやっています。

    僕自身、しゃべり方や(芝居の)やり方は個性的なほうだと思います。若いころは、「何を言っているのか(せりふが)分からない」とか、「お前の芝居を見ているんだったら台本を読んでいたほうがいい」とまで言われたことがありました。

    個性によって台本が引き立つ場合はいいですが、自分の癖みたいなものが出てしまって、台本の内容が伝わらなくなることは一番避けたい。

    僕が与えられた役を演じることで台本も花開いてほしいし、間違っても足かせにはなりたくないと思っています。

    ── 作品選びの基準は?

    六角 ありません。“御用役者”ですから。僕を必要だと言ってもらえるなら、そこで自分ができることをやるまでです。

    そもそも、「あの役をやりたい」みたいな欲求がない。今後の目標とかよく聞かれますが、まったくないんです。

    ただ、目標がないのとエネルギーがないのは別です。求められたことはできる限りしっかりやりたいと思っています。

     俳優として映画やドラマに出演する傍ら、扉座などの舞台にも立ち続ける六角さん。また音楽好きが高じて、30代半ばに「六角精児バンド」を結成。19年12月の「そのまま生きる」など、これまで2枚のアルバムをリリースしている。さらに鉄道ファンとしても知られ、15年からは鉄道旅や旅先などでお酒を楽しむ番組「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」(NHK)への出演も続けている。

    ── 芝居、音楽、旅番組への出演。六角さんにとって、それらはどういう役割ですか。

    六角 音楽をやっているのは、自分が本当に楽しいから。仕事になればいいなと思っていますが、まだそこまでは至っていません。

    仕事に結びついているのは鉄道の方ですかね。あの番組(「呑み鉄本線・日本旅」)は、趣味が仕事になっているとてもナイスな存在です(笑)。

    劇団は高校の部活動の延長のような感覚で、それだけで生活していくのはなかなか難しい。

    ただ、お芝居に関しては、映像にしても舞台にしても、仕事としてしっかりやらなければと思っていますから、ハードルがあったらそれを越えなければいけないし、根性も必要です。

    僕は仕事の中で達成感を大切にしていますから、映像にしても舞台にしても、達成感がより豊かだとうれしいです。

    減ったギャンブル依存

    「六角精児バンド」も率いる ファーストアルバム「石ころ人生」より
    「六角精児バンド」も率いる ファーストアルバム「石ころ人生」より

    ── 若いころの経験は、俳優という仕事の肥やしになっている?

    六角 なっていると思います。僕は役者として順風満帆でやってきたわけではありません。

    人から求められていないと感じていた時期が30代の後半くらいまであって、その間にギャンブルにのめり込んで借金を作ったり、それが原因で離婚されたりしました。

    でも、そうした経験が「自分はたいした人間じゃない」という考えにつながっていて、人がやる大概のことは許せます。

    お芝居って、言葉とか、目線とか、相手役やお客さんとのエネルギーのやりとりとか、そういうものが俳優の個性として表れたりすると思います。

    いろんな経験が積み重なって人間はできているので、その人間の存在感が僕のお芝居に出ているのなら、肥やしになっていると言えるのではないでしょうか。

    ── 新型コロナウイルス禍で日常や仕事はどう変わりましたか。

    六角 パチンコ屋に行かなくなり、ギャンブル依存が少なくなりました。これは自分にとってはものすごい変化です。

    特に昨春の2カ月の自粛期間は、旅にも行けないし、仕事もない。たまに近くのスーパーまで奥さんと買い物に行ったりしましたが、家にあれだけいたのは、ここ20、30年で初めてに近いんじゃないかな。

    ── 仕事の面での変化は?

    六角 みなさん、どういうことをおっしゃるんだろう。

    ── ある俳優さんは、「俳優の求められる形が変わってくるのではないか。俳優はどうあるべきかをすごく考えた」と言っていました。

    六角 そんなこと考えたことないな(笑)。その人はきっと若い俳優さんだな。

    僕もこのまま(自粛が)続いたらどうしようとは思いましたが、何とかして生きていくしかないし、考えてもしょうがないですから。

    最近思うのは、確かなことなんて一つもないということ。いろんなことが日々変わるし、ネットのニュースでは、あらゆる情報が同じようなレベルで流れています。

    以前から、多数の人たちが考えたり思ったりすることが、必ずしも正解ではないと考えていましたが、それをより強く感じるようになりました。

    何かに対して自分はこう考えるとか、ここはこうなんだと少しでも思うことがあれば、それを大切にしていくしかない。

    自分の思ったことに素直に生きる、それしかないと思います。

    ── 演劇界では活動の場が減り、若手劇団員の生活が大変だと聞きます。

    六角 舞台などの仕事が減って大変なのは確かだと思います。でも、何をどうしたらいいんでしょう。

    リモートで何かをやるという動きもありましたが、自分からやろうとは思いませんでした。だって、リモートで演劇はできませんから。リモートのリーディング(朗読)に誘われて1回参加しましたが、その時は経済的に誰かが潤うことにつながらなかったんです。

    ただ、ライブハウスが大変そうだったので、お客さんが入らなくてもいいという前提で、(六角精児バンドの)ライブはやりました。

    それは自分にできることですし、自分も楽しめますし、少しはライブハウスやバンドを一緒にやっているメンバーのためになると思いましたから。

    ── 現在58歳です。 来年には還暦となりますが、今年の抱負は。

    六角 いただいた仕事を一生懸命やるということだけです。ただ、今年は自分がやったことのないような大きなミュージカルの舞台(5月から公演予定の「レ・ミゼラブル」)もあって肉体的にも精神的にも結構大変だと思うので、そこはしっかり乗り越えていきたいです。

    そして自分なりに納得できる作品に出会えればいいなと思っています。

    (本誌初出 映画「すばらしき世界」出演=六角精児・俳優/828 20210209)


     ●プロフィール●

    六角精児(ろっかく・せいじ)

     1962年6月生まれ 、兵庫県出身。82年に劇団「善人会議」(現・扉座)の旗揚げに参加し、数多くの舞台に出演。ドラマ「相棒」シリーズ(2000年~)の鑑識・米沢守役で人気を博し、「相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿」(09年)で映画初主演。最近の映画出演作に「くらやみ祭の小川さん」(19年)、「前田建設ファンタジー営業部」「妖怪人間ベラ」(20年)など。21年5月から公演予定のミュージカル「レ・ミゼラブル」に出演する。

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