週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

“水素コンサート”開催=SUGIZO・ギタリスト&バイオリニスト/831

    燃料電池車の電気を演奏機材などの電源として燃料電池車を使ったLUNA SEAのライブ(2019年12月、さいたまスーパーアリーナ) LUNA SEA inc.提供
    燃料電池車の電気を演奏機材などの電源として燃料電池車を使ったLUNA SEAのライブ(2019年12月、さいたまスーパーアリーナ) LUNA SEA inc.提供

     コロナ禍の中で昨年末、ソロアルバム「愛と調和」を発表したSUGIZOさん。ロックバンド「LUNA SEA」や「X JAPAN」のメンバーとして活躍する一方、社会のさまざまな矛盾に目を向け、自らアクションを起こしている。

    (聞き手=加藤純平・ライター)

    「燃料電池車の電気を使うと、音の良さが全然違う」

    「3・11でボランティアをして 『力になれること』に快感を覚えた。 “現場監督”もできますよ」

    「僕は株式投資も好き。自分の投資が世の中をいい方向に導けるなら、とても素敵なことだと思います」 撮影=佐々木 龍
    「僕は株式投資も好き。自分の投資が世の中をいい方向に導けるなら、とても素敵なことだと思います」 撮影=佐々木 龍

    ── 昨年12月にソロアルバム「愛と調和」を発表しました。

    SUGIZO 本来は女性ボーカリストたちをフィーチャー(前面に押し出すこと)し、さまざまなミュージシャンとのセッションを中心とした作品を予定していました。しかし、新型コロナウイルスの影響で、人とリアルに対峙(たいじ)するもの作りも、海外でのレコーディングも不可能に。「今、自分にできることは何か」と考えた時に「ポストパンデミック(感染症の大流行後)におけるヒーリング・ミュージック(癒やしの音楽)」というインスピレーションが湧きました。(ワイドインタビュー問答有用)

    ── SUGIZOさんがメンバーのバンド「LUNA SEA」や「X JAPAN」の激しい音楽とは正反対のテイストですね。

    SUGIZO これまで強い刺激を求めて音楽をやってきましたが、今はそれ以上に心地よさや安堵(あんど)感といった救済の音楽が必要だと思ったんです。10年以上前からアンビエント(環境)&ヒーリング・ミュージックを追求していきたいという構想はありましたが、図らずもこのタイミングでの制作となりました。この苦境の中で疲弊しきった人々の、心や魂を癒やせるような音楽によって、一人でも多くの人が自分の本来の呼吸を取り戻してもらえたら、と願っています。

    ── 昨年12月末にさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)で2日間にわたって開催を予定していたLUNA SEAのライブは、ドラムの真矢さんがコロナに感染し、延期になってしまいました。

    SUGIZO 本当に残念でした。が、あの時点では決断は正しかったと思っています。とにかく真矢の完全復活を祈るしかありません。今年に入って再び緊急事態宣言が発令された中でも振り替え公演の予定を計画していますが、振り替え公演では現在できうる最高のLUNA SEAをお見せしたいです。こんな状況だけれど、今だからこそできることがある。学べること、吸収できることがある。この状況を利用して僕もファンの皆さんも一人ひとりが自分をアップデートし、一回り大きくなって再会できたらうれしいですね。

    ── ソロ活動とバンドではどのような違いがありますか?

    SUGIZO ソロ活動はライフワークです。自分が表現したいことを最も純粋に形にできますから。一方のバンドでは、僕は一つの要素であり、メンバーが混じり合うことで想像以上の音楽的ケミストリー(化学作用)が生まれる。その可能性と感動を追求するのがバンド活動です。どちらか一つではダメで、バンド活動をしていないとみんなで集まって音を出したくなります。結局、僕らはロックンロールしたくて、それは学生時代から変わらない。バンドマンの本能と言えるでしょうね。

    愛娘の誕生で一変

    ── アリーナを埋め尽くすほどのバンドになっても、その“初期衝動”は変わらないんですね。

    SUGIZO 今の僕たちがここにいるのは、活動休止や再開もあり、関係性が一周した結果でもあります。でも、本質は変わらないですね。(LUNA SEAメンバーの)5人で真剣にビジネスの話をしている時もあれば、演奏しているうちに30年前にトリップしたような感覚になったりもする。それに、全員が50代になると、まずはみんなが生きているだけで感謝しています。周りには若くして亡くなった仲間も多くいるので……。

    「愛と調和」は「So Sweet So Lonely」など全10曲を収録。エコーを効かせながらアコースティックギターを爪弾き、シンセサイザー音と融合させたり、屋久島で採集した自然音も取り入れたりした、新たな境地を開く作品だ。1990年代からLUNA SEAのギタリストとして日本のロックシーンをけん引してきたSUGIZOさん。時代が求める音楽のあくなき追求を続けている。

    ── 若いころと今ではどんな心境の変化があったのですか。

    SUGIZO 一つは表現の求道者になったこと。自分の音楽を突き詰めていくと無駄な遊びをする暇がなくなりました。そして、一番大きいのは、96年に長女が生まれ、父親になったことですね。それまでの僕は、酒やタバコ、添加物にまみれた生活で、体は正直ボロボロ。あまりにも自分の体がむしばまれていたので、娘が健康に生まれてくれて本当に安心しました。そんな娘があまりにもいとしく、「この子が生きていく世の中を、より良くしていきたい」と思い始めました。娘が生まれる前後では全く違った人格です(笑)。

    ── 2016年からヨルダンのシリア難民キャンプをたびたび訪問し、18年にはラマラなどパレスチナ自治区3カ所でライブを開くなど、世界にも目を向けています。

    SUGIZO 娘が同年代の子どもたちと遊ぶようになってくると、みんなのことがいとおしくなりました。でも、世界の情勢に目を向けると、娘と同年代の子どもが飢えていたり、紛争の被害に遭ったりしている。その実情を知った時に居ても立ってもいられなくなり、98年に国際NGO(非政府組織)「フォスター・プラン」(現プラン・インターナショナル)を通じて、貧しい国の子どもたちに経済的な支援をするようになりました。支援先のトーゴやネパールの子どもたちから写真や手紙が定期的に送られてきて、それが涙が出るほどかわいいんですよ。

    ── 反戦や環境問題へのメッセージも発信していますね。

    SUGIZO 湾岸戦争(91年)で使用された劣化ウラン弾によって、病気を抱えて生まれた子どもの存在を知った時は、ものすごい憤りを感じました。やはり、子どもたちの未来を考えると戦争は絶対に反対です。どんどん悪化する環境問題の活動にも積極的に飛び込んでいくようになりますし、被ばくも嫌だから原子力発電所のあり方も気になってくる。結局、一番の目的は子どもたちのためであり、未来のための活動で、僕のさまざまな活動はすべてそこにひも付きます。

    利己と利他の橋渡し

    SUGIZOさん(右)に教わりながらバイオリンを弾くヨルダンの子どもたち(2019年10月) Photo by Keiko Tanabe
    SUGIZOさん(右)に教わりながらバイオリンを弾くヨルダンの子どもたち(2019年10月) Photo by Keiko Tanabe

    ── 今年の3月11日は東日本大震災から10年。震災直後は宮城県石巻市でボランティア活動にも参加しました。

    SUGIZO 3・11の時にボランティアをして以降、「力になれること」に快感を覚えました。変な話ですが、癖になっているんです。3・11では、地震と水害が同時に、しかも未曽有のレベルで起きてしまった。僕には、そんな過酷な現場で活動をしたノウハウがあります。例えば、水を吸った畳はものすごく重たい。これは2人で運ぶのも危険なんです。

     今の僕なら「畳はすごく重いから4人で運んで」「がんばった自分のことを偉いと思わないで! 危ないと思ったら他の人を呼んで!」と指示することができますよ。18年の西日本豪雨では、水害に遭った岡山県倉敷市の真備地区でのボランティア活動で、僕が“現場監督”として約60人を仕切りました。音楽で食いっぱぐれたら、現場監督として働けるかもしれません(笑)。

    ── 社会活動における自身の役割をどう捉えていますか。

    SUGIZO 僕は物質的競争社会であるヒットチャートの世界、要は「利己的意識」の世界と、未来のことを本気で考え、この地球と共存し、世の不均衡を正したい「利他的意識」の世界、その両方で生きています。僕の役割は、この二つの世界の橋渡し。このままだと、100年後に明るい未来が待っていないかもしれない。そう思うと、やっぱり居ても立ってもいられません。それは音楽活動でも同じ。「今、売れること」も大事ですが、それ以上に100年後、300年後に聴いてもらえる音楽を作ることができたらと、そう心から願っています。

     SUGIZOさんが今、力を注ぐのは、再生可能エネルギーの普及に向けた活動だ。SUGIZOさん自身、水素を使って発電するトヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」を所有。17年からはMIRAIをギターなどの機材電源とする“水素コンサート”も開き、「水素を身近に感じられる社会に向けて貢献した」として、19年には環境大臣から感謝状も贈られた。

    ── “水素コンサート”は非常にユニークな取り組みですね。

    SUGIZO 燃料電池は利用時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、災害時には発電機としても活用できます。そうした燃料電池車の素晴らしいコンセプトに共感しました。ただ、発電に使う水素がCO2を排出する化石燃料で作られていては意味が半減するので、ライブの機材電源として使う時には、「再生可能エネルギー由来の水素を使いたい」というこだわりがあります。

     そのため、近年のライブではMIRAIを積載車で運び、太陽光など再生可能エネルギー由来の水素を充填(じゅうてん)してもらっています。積載車はCO2を排出するガソリン車なので、この取り組みを完璧にするには、まだまだたくさんの課題があります。とはいえ、やらないよりは全然マシですから。

    ── 昨年12月末に予定されていたライブでも水素を活用する計画だったそうですね。

    SUGIZO はい。しかも、今回は「福島水素エネルギー研究フィールド」(福島県浪江町)という再生可能エネルギーを利用した世界最大級の水素製造施設に協力してもらう予定でした。福島で作られた再生可能エネルギー由来の水素を使うこの取り組みは、ものすごく重要なメッセージを伝えられると思っています。

     意外に思われるかもしれませんが、会場の近くに置いた燃料電池車の電気を使うと、音もすごく良くなるんですよ。

    「パキーン!」と鳴る

    水素の啓発活動が評価され、原田義昭環境相(当時、右)から感謝状を贈られるSUGIZOさん(2019年7月) Photo by Keiko Tanabe
    水素の啓発活動が評価され、原田義昭環境相(当時、右)から感謝状を贈られるSUGIZOさん(2019年7月) Photo by Keiko Tanabe

    ── 同じ電気なのに、音に違いが出るのですか?

    SUGIZO まったく違いますね。聞いてもらえば一発で分かりますよ。電気自体は水素で作ろうが原発で作ろうが同じです。しかし、発電されてから電線を通って送られてくる間に電気はどんどん劣化します。途中でノイズも混じってしまう。照明など一般の家電ではほぼ影響はないと思いますが、音の場合は立ち上がりのスピードやクリアさが全然違います。「パキーン!」と鳴るので、わざわざ音の調整が必要なほどです。

    ── 燃料電池車の活用で、環境と音質の両方を追求できると。

    SUGIZO 実は、音の良さは、思わぬ副産物でした。環境保全を訴える野外イベント会場で過去、幾度となく太陽光発電による電気を使って演奏しましたが、音響スタッフさんたちと「音が全然違うよね」と話しています。例えるなら、刺し身のような感じかな。長い時間をかけて輸送されスーパーで売られている刺し身と、取れたてを船の上で食べるのとでは、鮮度もおいしさもまったく違う。電気も同じなんですよ。

    ── コロナ禍はまだまだ終わりが見えません。これから向かうべきはどんな社会だと考えていますか。

    SUGIZO 図らずも文明の曲がり角に来たんじゃないかと思っています。コロナ禍でもあらわになりましたが、日本でも格差の拡大が深刻で、貧困が原因で死んでしまう子どもがたくさんいる。社会の不均衡に憤りを感じます。これまでのあり方を見つめ直しながら、同時にこれを乗り越えることで、我々が次のステップに行けるはずだと思っています。


     ●プロフィール●

    SUGIZO(スギゾー)

     1969年7月、神奈川県秦野市出身。92年5月、ロックバンド「LUNA SEA」のコンポーザー、ギタリスト、バイオリニストとしてメジャーデビュー。97年からソロアーティストとしても活動開始。映画や舞台、アニメ音楽をはじめとするサウンドプロデュースに加え、国内外のさまざまなアーティストとコラボレーションやセッションを展開。2009年5月にロックバンド「X JAPAN」に加入。昨年12月発表のアルバム「愛と調和」は14作目のSUGIZOオリジナル作品。

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