日本人はなぜ「つみたてNISA」をすぐ売却してしまうのか
長期の積み立て、分散投資を促す非課税制度「つみたてNISA」が2018年1月にスタートしてから3年。口座数、買付額ともに増え続けている一方、やや気になることがある。
実は、「短期売却が意外に多い」ということだ。
18年に専用口座で買い付けた931億円の約2割は翌19年に売却されている。
専用口座から毎年40万円まで対象商品(投資信託)を購入でき、最長20年間、商品から得た利益が非課税となるつみたてNISAは制度開始から、じわじわと個人投資家の間で活用が広がったが、20年はさらに活用が拡大した。
つみたてNISAの口座数は18年末の104万口座から、直近の20年9月末には約2・6倍の275万口座まで増えている(図)。
買付額の増加は、口座数の伸び以上に顕著で、18年の931億円に対し、19年は2倍超の2044億円。
20年は9月までの9カ月間で、2638億円となり、既に19年を超えている。
正確な数字の公表はまだ先だが、この調子でいけば、20年の買付額は4000億円に迫り、19年の2倍近くに達すると予想される。
株高で利食い売り
一方、18年の買付額931億円のうち、17%の158億円が翌19年に売却されていた。
19年は世界的に株価が上昇したこともあり、購入した株式投資信託などを利益確定のために売却したくなるような市場環境であった。
つみたてNISAは長期投資を支援する制度であるにもかかわらず、短期志向の投資家が意外に多かったと言える。
昨年分のデータはまだ公表されていないが、昨年も4月以降は一貫して世界的に株価が上昇しただけに、どれほど売却が出たのか注目される。
そもそも、税制優遇の効果は、利益が出るほど大きくなる。特に、つみたてNISA口座では税制優遇は1回限りで、いったん売却すると恩恵は受けられなくなる。
つみたてNISA対象商品の中では、外国株式インデックス投資信託の人気が高い。
あくまでも過去の外国株式インデックスの推移を基に考えると、20年間保有すると価格は倍以上になる、つまり10万円分購入すると20年間で20万円以上になることが期待される。
ここで、つみたてNISA口座で10万円分購入した商品がかなり好調で1年間で30%上昇したとしよう。
その時点で利益を確定させると、6000円程度(=利益3万円×税率約20%)が税制優遇の効果となる。
それが、1年で売却せずに20年後に価格が倍になったとすると税制優遇の効果が2万円程度(=利益10万円×税率約20%)まで膨らむ。
やはり、時間をかけて投資の時価を大きく育てた方が合理的ではないだろうか。
購入した商品から利益が出ていると、思わずすぐ売却したくなるが、その衝動をこらえ、長期投資で大きく育てることを肝に銘じてつみたてNISAを活用したいところである。
(前山裕亮・ニッセイ基礎研究所 准主任研究員)
(本誌初出 つみたてNISA 「1年で売却」2割も 道半ばの長期投資=前山裕亮 20210209)