EV化で争奪戦に?レアアースの脱・中国依存が進んでいる背景
2020年6月、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法が改正され、同機構における新たな機能の一つとして、「金属鉱物の選鉱(鉱物の抽出)・製錬単独事業等に対するリスクマネー支援業務等」が新たに追加された。
つまり、企業が産業に不可欠な金属を世界市場で確保するために、鉱山に直接関わらない企業への投資を可能にする機能拡張を行うことにより、調達体制の強化を図りやすくした。
この背景には、中国などの特定国に重要資源の大半を依存することへの危機感がある。
同機構はこれまで、鉱山権益の取得や開発促進といったサプライチェーン上流域における支援を重視してきたが、改正により選鉱・製錬工場にも出資できるようになった。
具体的にはクルマの電装部品の材料となる銅やレアアース(希土類)、またEVの電池向け材料となるニッケルやコバルトなどの関連企業である。
これらの材料の生産は従来、日本が国際的な競争力を有していたものの、現在は中国がその地位を脅かしつつある。
特に次世代モビリティーに必須のモーター向けレアアース磁石は、原料調達を中国に頼らざるを得ない状況だが、ここにきて“脱中国依存”の機運が高まっている。
鍵は「原料から技術へ」
重要部素材を特定の国に依存することへの危機感は、米国や欧州でも募っている。
特に、米国は中国との対立姿勢を強めていることから、安全保障の観点より各種法令を矢継ぎ早に制定、改正している。
21年1月1日より施行された21年度の「国防権限法」では、レアアースをはじめとする重要資源の調達や国内産業の体制に関する調査分析の実施と、これらの強化に向けた各種支援策を盛り込み、中国に依存しないサプライチェーンの構築を強く企図する。
欧州でも、欧州委員会が20年9月3日に欧州原材料連合(ERMA)の立ち上げを発表。
レアアースをはじめとする重要物質の域内サプライチェーンを強化するため、関連する設備投資や技術開発を支援する方向に動いている。
このほか、米国と豪州との間で、両国の地質調査所による「クリティカルマテリアル(重要物質)」の連携協定を締結し、研究開発、採掘や生産能力の増強に努める。
また、国際標準化機構(ISO)や日米欧の会合の場でも関連する議論が行われるようになっている。
高品質のレアアース原料を安価かつ大量に供給している中国は、今後もしばらくは重要なレアアース供給国であることに変わりないが、リスクを分散させるためのサプライチェーン多様化の動きは今後も止まることがないだろう。
このとき重要になるのが、レアアース鉱石から磁石原料となる金属や合金を生産する技術や設備だ。
中国以外で技術を保有する企業は限られ、世界の中でも三徳、昭和電工、信越化学工業といった日本企業に絞られる。
日本で培われてきた技術が、多様化の鍵を握るのは間違いないだろう。
(清水孝太郎・三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員)
(本誌初出 レアアース 世界で争奪戦が激化 “脱”中国に動く日米欧=清水孝太郎 20210202)