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国際・政治 ガソリン車 ゼロ時代

「ガソリン車にこだわれば世界市場を失う」東大教授が警鐘をならす理由

政府が打ち出した「ガソリン車ゼロ」の狙いはどこにあるのか。環境問題と環境法に詳しい高村・東大教授に聞いた。

(高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授)

(聞き手=編集部、構成=市川明代・編集部)

── 2020年12月25日に国が発表したグリーン成長戦略で、「ガソリン車ゼロ」が打ち出された。なぜこのタイミングなのか。

■地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を2度未満、努力目標として1・5度未満とする目標を掲げており、国際的にはこの10年が勝負と言われている。

ただ、それ以上に大きいのは、日本の自動車産業の将来への強い危機感ではないか。

自動車業界ではすでに電動化、自動運転化による「モビリティー革命」が進んでいるが、その流れを「脱炭素」が後押しし、北米、中国、欧州という大きな三つの市場が「脱ガソリン」に向かって動き出した。

日本やドイツのように強い既存産業のあるところほど、それを「守りたい」という意識が働くのは当然だが、このままでは確実に10年後、20年後に市場を失う。

日本は時代を先取りした新たな環境技術を生み出す力があるが、それを商売にするのは苦手だ。

例えば日本の太陽電池は、上位5社に日本企業4社がランクインするなど、 00年代半ばまで世界で非常に高いシェアがあったが、国内で大きな市場ができないまま、政策によって需要を創出、市場を拡大した欧州や中国の企業とのコスト競争に太刀打ちできなくなった。

同じ失敗をしないために、まずは国内にしっかりとした市場を作る必要がある。

── ハイブリッド車(HV)への規制は見送られた。

■HVは、これまで高い評価を受けてきた技術だけに、そこからの転換には業界内で強い抵抗があるだろう。ただ、世界中がガソリンを使わない自動車への転換に動いている。

その流れに逆らってHVに依存する施策は取るべきではない。

成長戦略の中身を見ると、現段階ではHVに配慮しているが、ガソリン車ゼロへの移行を誘導していくという意志が感じられる。

中小企業支援は必須

── 脱ガソリン車に向け国の役割は。

■重要なのは、充電ステーションなどのインフラ整備だろう。

それがなければ、自動車メーカーがEVを作っても売れない。

もう一つは中小企業支援だ。

日本企業の9割は中小企業が占め、サプライチェーンを担う。そこが脱炭素に向けた対応を取っていけなければ、日本は世界との競争に勝てない。

国も企業もまきこんだ、まさに総力戦だ。

── 「電力の脱炭素化」が進まなければカーボンニュートラルは実現しないという批判もある。

■電力の脱炭素化は急務だ。

インフラ整備は非常に時間がかかる。今すぐ動かなければ、「2050年」はあっという間にやってくる。

(1)再生可能エネルギー、(2)原子力、(3)グリーン燃料、回収・貯留などでCO2を排出しない火力

──で、電力をCO2排出ゼロにする技術はある。いずれもコスト低減が課題だ。

再エネは普及によるコスト低減の可能性が見通され、「今」から排出削減に貢献できる。

政府は参考値として50年時点の発電量に占める再エネの比率を50~60%としたが、導入に向け送電線や立地などの制約の解消、さらには技術革新を促すため、より野心的な高い目標を掲げるべきだ。

(本誌初出 INTERVIEW 高村ゆかり「内燃機関に固執すれば市場失う。“脱炭素”は企業、国の総力戦だ」 20210202)


 ■人物略歴

たかむら・ゆかり

 島根県生まれ。京都大学法学部卒業、一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。名古屋大学大学院教授などを経て現職。主な研究対象は気候変動とエネルギーに関する法政策。中央環境審議会委員、パリ協定長期成長戦略懇談会委員などを歴任。

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