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資源・エネルギー LNG

日本の電力需給ひっ迫に中国が関係する深い理由

LNG船の用船料も高騰する……(千葉・富津)(Bloomberg)
LNG船の用船料も高騰する……(千葉・富津)(Bloomberg)

今年に入り、日本が深刻な電力需給逼迫(ひっぱく)に苦しんでいる。

寒波の来襲とともに暖房用の電力需要が増加し、電力の供給可能量に対する需要の割合を意味する電力使用率も、大手電力9社が95%を超える状況となっている。

一般的には、電力使用率は93%以下が望ましく、97%を超えると電力需給調整が難しくなり、電圧や周波数の変動、場合によっては停電(ブラックアウト)を引き起こすリスクがある。

これほどまで電力需給が逼迫している背景には、LNG(液化天然ガス)の調達難とLNGスポット(随時契約)価格の高騰が挙げられる。

日本ではLNG火力発電が電力需給の調整役となっていたが、昨年4月に百万BTU(英国熱量単位)当たり1・825ドルと過去最低を記録したLNGスポット価格(JKM、Platts北東アジアスポットLNG査定価格)は、今年1月には30ドル超と過去最高を更新し、LNGの調達が一気に難しくなった。

まさに日本は今、2011年の福島第1原子力発電所事故以来の危機的な状況にある。

電力需給の調整を図る電力広域的運営推進機関は、地域を越えた電力融通を100回以上にわたって指示しており、大手電力企業は各電力企業間の相互融通、都市ガス企業へのLNG融通要請、石油火力発電の稼働等の総力を挙げて、電力危機に取り組んでいる。

また、電力のスポット取引を行っている日本卸電力取引所(JEPX)では、今年1月14日夕刻のスポット価格が1キロワット時当たり251円と過去最高を記録した。

家庭用電気料金は1キロワット時当たり20円程度だが、電力自由化により新規参入した新電力は、独自の発電所を持たず、スポット市場からの電力調達に依存しているため、新電力と契約する消費者が電気料金の暴騰に見舞われている。

プラントのトラブル続発

日本はLNGを安定して調達するため、需要量のうち7~8割程度を長期契約で調達しているが、今回のような需給逼迫の際にはスポット市場で調達せざるをえない。

現在のLNGスポット市場の価格乱高下は歴史上、初めてといえるが、その要因として国際LNG市場の構造的な脆弱(ぜいじゃく)性が挙げられる。

こうした構造的な脆弱性は、大きくLNGの需要面と供給面の要因に分けて考えられる。

スポット価格が暴落した昨春の時点では、需要面では新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による景気後退や、大口需要国の中国、インドでロックダウン(都市封鎖)実施によってLNG需要が減少した。

また、供給面では、米国、豪州などの新規LNGプラントが稼働開始し、LNG供給が増加したことから、LNGが供給過剰となった。

しかし、昨秋以降はLNG需給関係が大きく変貌した。

中国がいち早くプラス成長となったほか、地球温暖化対策、大気汚染防止策として産業用、発電用の燃料を石炭や重油からLNGに切り替えたことでLNG輸入が増加した。

また、寒波の来襲によって韓国、台湾なども発電用のLNGの輸入を増加させた。

一方、供給面では、豪州のゴーゴンLNGプラントなどで部品の故障といったトラブルが相次いで発生した。

さらに、米国のシェールガスを原料としたLNGは、メキシコ湾からパナマ運河を通過してアジア大洋州に輸出されているが、新型コロナ感染対策によりパナマ運河の大型船の通行量が制限され、LNG輸送船が1日に1隻以下しか通航できなくなった。

メキシコ湾─極東間のLNG船の用船料も、通常時は百万BTU当たり2ドル程度だったのが、現在は6ドルに高騰し、LNG輸送船も満足に手当てできない状況にある。

強まる中国の影響力

もともと、LNGプロジェクトは、構想から生産開始まで5~10年程度の期間と数兆円の投資を必要とする巨大プロジェクトであり、短期的な需要変動に対して、即座に供給面の対応ができない。

世界全体のLNG供給能力は年間4億トン超と、消費量の3億5473万トンに対し、供給過剰の状況にある。しかし、LNG需要の伸びが著しいアジア大洋州ではLNG供給能力が十分ではなく、局地的なLNG需給逼迫が起きる。

また、液化して輸送・貯蔵するにはマイナス162度に冷却しなければならず、長期間の備蓄が困難で20日間程度の在庫しか持てない。つまり、価格が大幅に下落した時期があっても、その時期にLNG在庫を積み上げることが難しい。

こうした市場構造の下でLNG需要が急増すると、短期間での調達が極めて困難になる。

また、中国は長期的にも、炭酸ガス排出量削減を目指し、LNG輸入量を急増させている。

中国は昨年、前年比1割以上もLNG輸入量を増やしており、昨年12月のLNG輸入量は800万トン超と、世界最大のLNG輸入国日本を単月では上回ったと見込まれる。

21~22年には中国が日本を抜いて、世界最大のLNG輸入国になるのは間違いない。

国際LNG市場は構造的な余剰から、アジアの局地的な需給逼迫へと変貌している。

日本では原発の新設・再稼働が見通せず、炭酸ガス排出量の多い石炭火力発電も新設が難しい。

太陽光発電は12年の固定価格買い取り制度の導入によって普及し、LNG輸入はピーク時より1000万トン以上も減少した。しかし、日照のある日中に冷房需要が増える夏場と異なり、厳冬による悪天候や、夜間に暖房需要が増える冬場は太陽光発電では電力不足を補えない。

結局、現在の日本ではLNGの安定供給に依存するしか方法がない。

日本にとって重要なのは、安定した価格形成が図られるLNGスポット市場の整備だ。

それにはまず、アジアでのLNG先物市場を構築する必要がある。

現物受け渡し可能なLNG先物は19年10月、世界で初めてニューヨーク・マーカンタイル取引所に上場した。日本でも東京商品取引所が22年の上場を目指すが、もはや待ったなしの状況だ。

また、LNGスポット市場全体の拡大にも取り組むべきだ。

そもそも、世界のLNGスポット・短期契約の輸入量は19年、1億1895万トンと、LNG全体の輸入量の3割程度にすぎない。

市場規模の小ささが価格の乱高下につながっている側面は否めず、今後のLNG需要の増加が見込めるインドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)などと連携し、市場拡大に取り組むことが日本にとっての安定調達につながる。

(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)

(本誌初出 危機に陥った日本の電力需給 LNGの構造的問題を露呈=岩間剛一 20210216)

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