国際・政治東奔政走

森喜朗氏に引導を渡した小池百合子氏の「上司を見切るセンス」

    森氏を巡る小池百合子東京都知事発言には政局的な意図もうかがえる(東京都新宿区で2月12日)
    森氏を巡る小池百合子東京都知事発言には政局的な意図もうかがえる(東京都新宿区で2月12日)

    「元祖・平成政界の渡り鳥」たる小池百合子東京都知事の“面目躍如”の立ち回りだった。

    東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性蔑視とされる発言」(持って回った表現だがNHK報道が一貫して使っていたので借用してみた)で2月12日、辞任を表明した。

    問題が大きくなったのは、SNSを通じ国内外で世論が反発したためだが、当初「失言」撤回で居座ろうとした森氏を未練たっぷりの辞任へ追い込んだ舞台回しでは、小池氏のしたたかさが際立った。

    「会談欠席」で引導

    「私は出席することはない」。

    2月に予定されていた国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長と森氏、小池氏、橋本聖子五輪担当相の4者会談に、小池氏が欠席を表明し、局面は一気に森会長辞任不可避へ傾いた。

    小池氏が2017年の衆院解散直後、新党「希望の党」を結成し、旧民進党からの合流について、笑顔で「(一部議員は)排除いたします」と述べた過去をほうふつさせる。

    森氏擁護論の自民党からは「今度は森氏を排除か」とうめき声が漏れた。

    4年前の排除の論理は、猛反発を受けて小池氏は求心力を失い失敗に終わった。

    「森氏排除」も、女性差別をうやむやにさせず、きちんと責任を取らせた意味では成功だとしても、五輪の成り行き次第では、開催都市の知事として政治的に吉と出るか、凶と出るか、そこはまだ分からない。

    小池氏と森氏の因縁は古い。

    日本新党→新進党→自由党→保守党→保守クラブ→自民党→都民ファーストの会→希望の党→都民ファーストの会。小池氏の政治遍歴をたどると、国政では新進党時代を除けば、常に与党である。権力への執念と感度は折り紙付きだ。

    今から約20年前、自民党で所属したのが当時の森派(現細田派)だった。

    小渕恵三首相の自民・自由連立政権で経済企画政務次官に起用され、次の森内閣でも留任したので、元上司に当たる。

    一緒に自民党入りした仲間の議員たちとは別行動だったので目を引いたが、森氏を慕ったわけではないらしい。

    森派を選んだ狙いは翌年、次の小泉純一郎内閣で早くも環境相に初入閣を果たして明らかになる。先読みの確かさに政界はあっけにとられたものだ。

    「渡り鳥」は、変わり身の巧みさが身上。

    細川護熙元首相→小沢一郎元新進党党首→小泉氏。小池氏は側近として仕える政界トップを次々に変えてきた。

    その間に森氏も挟まれていたと考えれば、元上司を「切り捨て」る政治手法でも見事に一貫している。

    しかも森氏への「裏切り」は初めてではない。福田康夫元首相の辞任を受けた08年の自民党総裁選で、麻生太郎幹事長(当時)を推した森氏に逆らい、小池氏は立候補に踏み切ったからだ。以来、2人は犬猿の仲だった。

    それでも知事と日々接している都庁幹部によると、小池氏は当初、森氏が続投すると踏んでいたフシが強いという。

    森氏が問題発言をした翌日は「困惑している」と様子見で、次の日も「きちんと説明してほしい」と慎重だった。

    都庁への抗議が増えてきて初めて「絶句した。あってはならない発言だ」と批判したが、森氏の進退には言及を避けた。

    二階氏と会談

    一転して「4者会談欠席」のカードを切る前夜、小池氏は自民党の二階俊博幹事長と会談している。

    小池氏が森氏に引導を渡した同じ日、IOCの最高位スポンサー、トヨタ自動車の豊田章男社長が「大切にしてきた価値観と異なり、誠に遺憾だ」との談話を発表。

    これを先途と国内スポンサー各社が雪崩を打って「遺憾」のコメントを出したタイミングも圧力としては絶妙だった。小池氏は情報を得ていたのだろう。

    後任会長人事で、森氏が元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏に禅譲しようと、安倍晋三前首相ら関係者に電話で根回しした際も、小池氏は反対しなかった。

    森氏は菅義偉首相が「もっと若い人や女性はいないか」とためらった事情も明かしているから、作り話とは考えにくい。

    実際、小池氏は川淵案に対し手続き論だけ指摘した。川淵案が潰れて「女性会長」説に意見を求められると、「日本独特の質問だ。女性か男性かではない」とたしなめた。

    つまり今回、小池氏は女性の権利問題を正面から恐らく一度も論じていない。発言のメリハリには明らかな政局的意図がうかがえるだけに、狙いが気になるところだ。

    第1次安倍政権で、首相補佐官(国家安全保障問題担当)や初の女性防衛相に重用されながら、安倍首相が持たないと見切るや不祥事にかこつけ2カ月足らずで離任。

    第2次安倍政権で冷や飯に甘んじられず都知事に転身し、自前の地域政党を結成して都議選で一気に過半数を制した。

    余勢を駆った「希望の党」で一時は倒閣寸前の大政局を作ったのは4年前。今年は東京都議選も衆院選もある。

    政界の誰もが森会長辞任のミニ政局から当時のジェットコースターのような日々を思い浮かべた。

    菅政権の内閣支持率は2月に入って下げ止まりの兆しも見えるが、依然不支持率が上回る。政権の命運を握るキーマンの二階氏が、小池氏と気脈を通じているのも不気味な伏線を予感させる。

    (伊藤智永・毎日新聞専門記者)

    (本誌初出 「森会長排除」で際立った小池都知事のしたたかさ=伊藤智永 20210302)

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