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トヨタは21年にも試作車発表?「全固体電池」実用化競争のゆくえ

    現在、車載用電池はリチウムイオン電池(LiB)が多用されているが、同電池は電気自動車(EV)向けとしては、性能の限界に近づきつつある。

    そこで、既存の液系リチウムイオン電池を固体化する「全固体電池」の実用化に期待が集まっている。

    全固体電池の構造を簡単に言えば、既存電池の構成材料「セパレーター」と「電解液」の代わりに「固体電解質」を使う(図)。

    全固体電池が期待される理由の一つ目は、火災事故のリスクが低減する可能性がある点だ。

    既存のリチウムイオン電池は可燃性溶媒の電解液が使われており、条件がそろうと火災事故につながる。電解液の代わりに不燃性の固体電解質を使えば、リスクは低減するだろう。

    二つ目は、電池の冷却システムを省略できる可能性がある点だ。

    液系電池の作動温度域はマイナス30度から50度までの範囲で、特に50度を超える高温域では電池の劣化が加速する。これに対し固体電解質は、100度の高温域でも使え、かつ高温域ではイオン伝導率も大きくなるため性能も向上する。

    そのため、液系では必要な電池冷却システムを省略でき、電池システムのコンパクト化が期待できる。

    課題は安全性とコスト

    現在の全固体電池開発は、既存リチウムイオン電池に使われる正極材料の「三元系」(NCM=ニッケル・コバルト・マンガン)と負極材料の「グラファイト」で進められている。

    実はこれだけでは電池電圧は向上しない。だが、この構成で開発に成功すれば、次の段階に進める。

    すなわち、液系電池では禁じ手であった、高電位特性を示す正極材料や、エネルギー密度を最大級に高めることが可能な「負極用金属リチウム」を使う道がひらけるからだ。

    そうなれば、飛躍的な性能の電池が実現する。ここまで進化させると、全固体電池の特徴を最大限引き出せる。

    しかし、実現に向けての課題は多い。現状の固体電解質の開発は、東京工業大学の菅野了次教授とトヨタ自動車が発掘した硫化物系が前提だ。

    民生用の小型電池では、酸化物系の固体電解質が実用化されているが、これはイオン伝導率が硫化物系に比べて1桁小さく車載用に適さない。

    硫化物系の課題は、必須元素である硫黄を含むため、電池製造工程やクルマの衝突で電池内部に水分が入れば、人体に有害な硫化水素が発生するリスクもある。

    硫化水素の発生を制御する技術は開発中で、何らかの形で克服する必要がある。

    材料コストと電池製造プロセスコストを勘案すれば、全固体電池のコスト上昇は避けられない。

    固体電解質を量産できるプレーヤーは多くはない。とはいえ、開発が進展すれば、生産プレーヤーも増えて、コスト低減が期待できよう。

    トヨタ開発陣に厚み

    全固体電池の開発は日本勢が先行しており、トヨタがこの流れを作っている。

    同社は2020年代前半に全固体電池を搭載したEVの実用化を目指し、21年には試作車を公開する予定だ。

    筆者が、電池開発を手がける韓国サムスンSDIの役員を務めていた10年、トヨタ東富士研究所の全固体電池の研究開発責任者と意見交換をしたことがある。

    「10年後の20年ごろに実用化ですか」と聞いたところ、「当社の経営陣はそこまで待ってくれない」との返答だった。

    「17年くらいか?」と聞き返すと、「大体そのあたり」と述べた。

    既に目標年から4年過ぎているが、全固体電池はそれほど難しいということだろう。

    トヨタは研究開発に300人以上のスタッフを投入しているという。

    トヨタは20年4月1日付で、パナソニックと「角形金属缶リチウムイオン電池」の合弁会社「プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)」を設立したが、ここでも全固体電池の開発を進めていくはずだ。

    一方、日産自動車は28年に全固体電池を実車に搭載するとしている。

    筆者が勤めていたホンダも全固体電池を開発中だが、課題山積で実用化時期を公表できる段階にない。

    21年は各社で生産体制へ

    中核となる「固体電解質」の開発は、三井金属と出光興産が精力的に進めている。

    三井金属は21年中に、電池の試作に供給できるよう、年間数十トン規模の生産体制を整える模様だ。インフラ用や医療用での応用をにらみ、マクセルと協力して開発を急ぐ。

    同社の固体電解質はアルジロダイト型(Li-P-S-Cl系)結晶質で、車載用途の開拓にも拍車をかけている。

    トヨタが主導する別の固体電解質(Li-Si-P-S-Cl系結晶質)のイオン伝導率には及ばないものの、自動車メーカーや電池メーカーとの協業で実用化を目指す。

    出光興産も千葉県市原事業所に生産設備を整え、21年から稼働させるという。

    同社は硫化物系固体電解質の原料となる硫化リチウム(Li2S)の高純度製造技術を持ち、10年以上も研究を続けてきた。

    韓国や中国勢も全固体電池への参入を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

    (佐藤登・名古屋大学客員教授 エスペック上席顧問)

    (本誌初出 「全固体電池」の現実味 トヨタ、年内にも試作車か 電解質の鍵握る三井金、出光=佐藤登 20210302)

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