元共産党幹部をスピード処刑?習近平が反対派の弾圧を進める理由
米国のバイデン新大統領が1月20日、就任演説で国民の結束と国際協調を呼びかけた。
トランプ前政権と激しく対立してきた中国の対応が注目される中、習近平国家主席は1月25日、オンラインの国際会議で演説し、多国間主義を強調した。バイデン政権に関係改善の用意があることを示唆したと受け取られた。
激化する権力闘争
だが、中国の実情を見ると、すぐに対米交渉に入れるような余裕はない。共産党内の権力抗争が激化し、習主席の党内統治力が不安定になってきたからだ。
オンライン国際会議の前日、党中央規律検査委員会の全体会議が終わった。
ここで習主席は「一部の腐敗利益集団が国家権力を盗み取ろうとしている」「政治と経済の絡んだ腐敗が党と国家の安全に脅威となっている」「面従腹背の二面人間を厳重に取り締まれ」など、かつてない激しさで党内反対派に対する弾圧を指示した。
また「政治三力」(政治的判断力、政治的理解力、政治的執行力)を強調し、習政権への忠誠を迫った。
さらに習氏は1月28日、党中央政治局会議で改めて「政治三力」による党中央への忠誠を全党員に迫り、「『一把手(イパショウ)』(組織のトップ)に対する監督を強化せよ」と述べた。
「一把手」と言えば、中央直轄市・省・自治区の党委員会書記を指すことが多い。
習氏が政権を握った時にはライバルの薄煕来・重慶市党委書記などの「一把手」が逮捕されている。党内には来年の第20回党大会に向けた地ならしの反対派粛清が起きるのではないかという不安が一気に広がった。
政治局会議の翌日、衝撃的なニュースが流れた。
国有企業の不良資産を処理する資産管理会社「華融資産管理」の「一把手」、賴小民・元会長の死刑が執行された。
賴氏は江沢民派(上海閥)の大幹部、曽慶紅・元国家副主席(上海閥、江西閥、石油閥)と同郷の江西閥で、金融界の大物の一人。巨額の収賄や多重婚などの罪で起訴され、1月5日に1審で死刑判決が出てから、控訴棄却、死刑執行までわずか24日だった。
共産党の高級幹部は経済事件では死刑に問われないのが中国では常識だ。政治事件であっても死刑は執行猶予が付くのが普通だが今回は、習近平政権で初めての幹部党員の処刑となった。
賴氏処刑の背景には、米中貿易戦争と新型コロナウイルス禍で党内の反対派が勢いを増しているという党内情勢がある。
華北では新型コロナが再発し、地域住民の集団隔離や地域的封鎖が続き、庶民の不満も高まっている。党内抗争が爆発しやすい環境が醸成されてきた。
中国の証券筋によれば、賴氏は2015年に起きた上海株暴落事件に関与したと言われる。
党高官や一族の保有する巨額の投機資金を使って株式市場を混乱させ、習政権に打撃を与える「経済クーデター」のもくろみだった。
習氏はこの再発を恐れ先制攻撃に出たというのが証券筋に流れる臆測だ。
習政権に陰りが見える。規律委全体会議は習氏直系の副書記2人を転出、後任に曽慶紅系、王岐山系を起用する人事を決めた。
規律委を使って反対派を一気に粛清するのは難しい体制になった。長い党内抗争の始まりだろう。
(金子秀敏・毎日新聞客員編集委員)
(本誌初出 元幹部党員を“スピード処刑” 習主席が強める反対派弾圧=金子秀敏 20210223)