米議事堂はなぜ「過激派集団」の乱入を防げなかったのか
1月6日に発生した米国議会議事堂への暴徒の乱入は、全ての米国民にとりショッキングな出来事であった。
事件後、暴徒の正体、そして警備体制の問題が議論されているが、捜査が進展するにつれ、さまざまな事実が分かってきた。
当日の写真・映像が大量に存在する中、米連邦捜査局(FBI)は最高で1000ドル(約10万円)の懸賞金を提示し、容疑者の情報提供を促した。
この結果、既に150人以上の逮捕者が出ている。
また、民主・共和両党の本部にパイプ爆弾を仕掛けたとみられる容疑者情報の提供には、10万ドル(約1000万円)の懸賞金を提示している。
当日、トランプ大統領(当時)の集会には、全国から数万人が集まった。ワシントンDC市内のホテルは、満室のところもあったらしい。
皆トランプ氏の熱烈な支持者であったが、映像や実際逮捕された人を分析すると、多くの人が幾つかの右翼過激派グループに属していることが分かってきた。
これらのグループは、Qアノン、プラウド・ボーイズ、オース・キーパーズと呼ばれる極右イディオロギー集団、白人至上主義集団だ。
共通点はトランプ氏を崇拝していることと、特にこの2~3年で勢力を増していることだ。
これら過激派グループの台頭については、FBI、 国土安全保障省(DHS)が以前から警鐘を鳴らしていた。
FBIは飛行機やホテルの予約状況を事前監視しており、当日は相当数の群衆が集合すること、また穏やかでない計画がされていることを事前察知していた模様だ。
このような状況下、世界で最も警備が厳しく安全とされていた議事堂が暴徒の乱入を簡単に許したことには大きな疑問が残る。
当日の警備員は、普段とほぼ同数しか配置されていなかったらしい。
警備責任者であるDC市長や議事堂の警備を所管する議会警察のトップが、当日の警備は議会警察だけで十分であると判断していた。
昨夏、「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」運動の際、平和的抗議デモを州兵が排除したことに非難が集まったことも判断を誤らせた一因と言われる。
しかし、今回の暴徒集団の本質を過小評価したことが最大の原因と言える。
議会警察のトップは議会証言で謝罪している。これら極右過激派集団の台頭をFBI・DHSが、今後の米国の最大のリスクの一つと警告している。
特別区ゆえの問題も
ワシントンが州に属さない「特別区」であることも、警備体制を難しくした。
ワシントンの土地と建物は所有者がDC特別区と連邦政府に分かれている。法執行機関も六つの組織に分かれており、別の建物と土地の警備を所管しているのだ。
更に、州(特別区)の治安を守る州兵に対する指揮命令権がDC市長にはない。全米で唯一、大統領(最終的には国防総省に権限移譲されている)に帰属しているため、今回のような緊急事態の対応に時間がかかってしまった。
議会警察は全米でも最大規模の予算と人員が配分されているにもかかわらず事件を防げなかったことは、議会警備体制再考のきっかけになりそうだ。
市長は事件をきっかけにDCの州への昇格の必要性を訴えているが、果たして州であったら防げたかは疑問である。
(中園明彦・伊藤忠インターナショナル会社ワシントン事務所長)
(本誌初出 過激派集団を過小評価 議事堂乱入が残した課題=中園明彦 20210223)