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習近平が警戒?米中「デカップリング」がもたらす破壊的な影響の正体

米中分離が進めば、デジタル分野には深刻な影響も (Bloomberg)
米中分離が進めば、デジタル分野には深刻な影響も (Bloomberg)

「新冷戦を進め、デカップリング(分断)や制裁を行うことは、世界を分裂・対決に向かわせるだけだ」。

習近平国家主席は1月25日、世界経済フォーラム(ダボス会議)のオンライン会合で、こう指摘した。

発言の念頭に米国があることは言うまでもない。米国ではバイデン新政権が1月20日に発足したが、議会は超党派で中国に対して強硬姿勢であることから、対中政策に大きな変化はないとの見方が大勢を占める。

こうした中、中国政府は米国の制裁措置に対抗すべく、輸出・投資規制の強化策を矢継ぎ早に打ち出している。

昨年12月には軍用品やデュアルユース(軍民両用)品などの輸出を規制する「輸出管理法」を施行。日本企業にとって大きなリスクと認識されている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)が1月29日に公表した「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、保護貿易主義の影響を受ける通商政策として、「中国の輸出管理規制強化」を挙げる企業が29・3%で最も多かった。

「破壊的」な影響

中国政府は1月9日に「外国法・措置の不当な域外適用を阻止する弁法」を施行。米国の輸出管理規則が管轄権の及ばない他国・地域の取引にも域外適用されていることを背景に、中国政府が必要な対抗措置を講じることを規定した。

1月18日には「外商投資安全審査弁法」が施行され、国家の安全保障に関わる外国企業の投資を事前に中国当局に申告することを義務付けた。

米国の「外国投資リスク審査現代化法」に倣い、対中投資審査を厳格化した。

米中のデカップリングへの懸念も高まりつつある。

中国に進出する欧州企業で構成される中国欧州連合(EU)商会(商工会議所)は1月14日公表のリポートで、デカップリングの影響をマクロ、貿易、イノベーション(技術革新)、デジタルの4分野にわたって評価。

マクロ分野での影響は「比較的小さく制御可能」とした一方、デジタル分野では「非常に深刻で破壊的」とした。

半導体やソフトウエアなど米中技術戦争に含まれる重要品目を扱う企業は高い危険にさらされていると指摘した。

同商会のイェルク・ウトケ会長は「緊密なグローバル経済の統合に戻る方法を見つける必要がある。そうしないと、効率と競争を促進する規模の経済が崩壊するリスクがある」と警鐘を鳴らす。

同リポートに対し、中国商務省の高峰報道官は「いわゆる中国と世界のデカップリングは考えていないし、不可能だ」と強調。

とはいえ、中国政府はそのリスクに備えるべく、技術の国産化を推進し、対米依存を抑制していく方針も示している。

この一環として、1月29日には「基礎電子部品産業発展行動計画」を公表。製造業の弱点である部品産業の競争力強化を図り、2023年までに電子部品の売上総額を2・1兆元(約34兆円)に拡大し、売上高が100億元(約1600億円)を超えるリーディングカンパニーを15社育成する目標を掲げた。

米中対立の長期化を見据え、中国は年初からさまざまな政策を打ち出している。

とりわけ、米中のデカップリングの行方は日本企業の事業運営にも深刻な影響を及ぼしかねないだけに、今後の大きな焦点となりそうだ。

(真家陽一・名古屋外国語大学教授)

(本誌初出 高まる“米中分離”の懸念 「弱点」の国産部品をてこ入れ=真家陽一 20210302)

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