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再エネ推進派でも意外と知らない「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い

    川崎重工業が製造した世界初の液化水素運搬船の進水式=神戸市中央区の同社神戸工場で2019年12月11日午前11時16分、宇都宮裕一撮影
    川崎重工業が製造した世界初の液化水素運搬船の進水式=神戸市中央区の同社神戸工場で2019年12月11日午前11時16分、宇都宮裕一撮影

    現在、脱炭素が産業界の一大テーマになったことから水素に注目が集まるが、現状、日本では石油精製での利用や食品添加物などの産業用原料に使う、という小さなマーケットに過ぎない。では、今後、大規模消費が期待されるエネルギー用途としての水素の生産、貯蔵・運搬、利活用はどのように変化していくのであろうか。

    3タイプある水素

    水素は、原料や生産過程での二酸化炭素(CO2)排出の有無によって三つに大別される。

    現状では主に化石燃料由来の副生成品としての水素が市場に出回っており、これらは「グレー水素」と呼ばれる。製造過程でCO2が出るからだ。

    その手順は、

    (1)天然ガス中のメタン(CH4)や石油製品であるナフサなど、炭素と水素から成る物質(炭化水素)を水蒸気と化学反応させ、水素と一酸化炭素(CO)に分ける、

    (2)COについては、水蒸気と化学反応させ水素とCO2に分ける

    ──という2段階だ。

    「グレー水素」の製造過程で出るCO2を回収・利用・貯留する技術(CCUS)と合わせることで、水素の製造過程全体で見ればほぼ「CO2ゼロ」にできる。このような水素は「ブルー水素」と呼ばれる。

    「貯留」は地中に埋めること、「利用」はガス田や油田に圧入して産出量を増やす技術「増進回収法(EOR)」などを指す。

    ブルー水素は、原料である化石燃料のコストが低いことから、グリーン水素に比べても総コストが低いとされる。

    しかしCCUSには「実際に地中貯留で漏れが生じていないか」「地中環境への影響は」といった評価基準がない。設備投資も高く、開発途上の技術である。

    また、貯留が大量かつ経済的に可能な場所が、米国、豪州、中東産油国などに限られることから、ブルー水素は輸入が基本となる。

    水を再生可能エネルギーで電気分解し、製造過程でまったくCO2を発しないのが「グリーン水素」だ。

    ただ、水電解の市場は成熟しておらず、導入費用も高い。世界的にはコストが低下している再生可能エネルギーも、日本ではまだ高く、水素製造コストを下げるためには、更なるコスト削減が求められる。

    最近5~10年は、脱炭素という観点からの水素はグリーンとブルーに限定されているが、水素の市場拡大のためには、グレーも一定の役割を果たすことには留意が必要だ。

    例えば既に30万台以上普及している家庭用エネファームなどの燃料電池は天然ガスを水素に変換して利用しているが、発電効率が高いので省エネとCO2排出削減に一定の役割を果たしている。

    アンモニア運搬 現実的

    貯蔵・運搬についても数種類あるが(表)、今後数年単位で商用化が進むのはアンモニアに合成しての貯蔵・運搬とみられている。

    これは、水素(H2)と、空気中の窒素(N2)を反応させてアンモニアにして運搬する手段である。

    主な用途は火力発電所の燃料で、水素に戻さず、アンモニアのまま、石炭と混焼させる。アンモニアは従来、農業肥料としても世界中で取引されており、貯蔵・運搬・取引方法が確立されている。ただし、劇物であるアンモニアは、街中に持ち込むような分散型利用には適さない。

    他には、液化や圧縮がある。

    液化は水素ガスをマイナス253度に下げ、体積を約800分の1にすることで、貯蔵・運搬スペースをコンパクトにできる。

    海外から天然ガスを輸入する際に液化するのと同じ原理だ。

    ただ、ここまでの低温にするために、要するエネルギーを削減することが課題だ。

    同じガスから液体にするのにも、トルエンを使う手法がある。

    水素をトルエンと反応させて、メチルシクロヘキサン(MCH)に転換し、液状で貯蔵・運搬する「有機ケミカルハイドライド法」だ。

    水素ガスの体積を約500分の1に圧縮可能で、常温・常圧で輸送でき、既存の化学タンクやタンカーを使えるのがメリットだ。

    水素利用地で、触媒を用いて水素を分離する(脱水素)が、この際、熱の投入が必要であることが課題であろう。

    圧縮は、ガスのまま圧縮して貯蔵・運搬するが、圧縮にも限度があり、大量輸送には向かない。製造拠点から近い場所で使う「地産地消」向けだ。

    大規模供給網は必須

    では、水素の利用はどの分野で広がるのだろうか。

    国際エネルギー機関(IEA)の「Energy Technology Perspectives 2020」によると、世界の水素需要は2019年の7500万トンから50年には約3億トンになるとの見通しもある(図)。

    欧州では、まずは、主に軽工業などの小規模産業向けから開始し、徐々に市場を広げる戦略を取る。これに対して、日本では火力発電所での大規模需要を目指す。

    というのは、電力業界にも脱炭素が求められる中、日本では再生可能エネルギーの急速な伸びが容易ではなく、東京電力福島第1原発事故後は、原発再稼働も困難になっている。

    こうした状況では、既存の石炭火力発電所へのアンモニア混焼や水素・アンモニア専焼ガス火力発電が重要なオプションとなる。

    電力会社の水素利用が進めば、日本では、大口需要が一気に発生する。1ギガワットの水素専焼発電所が年間に消費する水素の量は約20万トンであり、燃料電池車(FCV)の200万台分に相当する。欧州の市場とは対照的だ。

    しかし、まだ、大口需要に対応できる水素サプライチェーンが確立されていない。

    水素の大口需要に対しては、資源会社や商社のノウハウが期待できる。資源を安定・大量調達し、需要家を確保・整理する能力に長(た)けているからだ。

    しかし、資源会社や商社にとっても水素は新領域で、設備投資も膨大になる。初期には取引価格も安定しないだろう。

    新たなエネルギー市場が生まれようとする中、民間のみの資金力・価格調整力では限界がある。

    研究開発や設備投資を支援する補助金や投融資制度、カーボンプライシングなどで化石燃料価格を高く設定するといった公的制度の議論は避けて通れないだろう。

    (編集部)

    (監修=柴田善朗・日本エネルギー経済研究所新エネルギーグループマネージャー)

    (本誌初出 水素3 潜在力と課題 発電に大口需要期待 1基で燃料電池車200万台分=編集部/柴田善朗 20210302

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