あの東京吉兆も閉店?緊急事態宣言で「閉店ラッシュ」の東京を歩いてみた
銀座 東京吉兆休業の衝撃 「銀座の顔が消える」
東京吉兆本店が休業──。
「銀座の顔」とも言える老舗の決断に衝撃が走った。
新型コロナウイルス感染拡大による2度目の緊急事態宣言は、歴史ある料亭をも押しつぶしていった。1月末で休業し、弁当の配達を続けるという。
銀座のある商店主は「東京吉兆の休業は本当にショック。銀座の“顔”がまた一つ消えた」と、肩を落とす。
◆ギンザシックスも閑散
海外の高級ブランドや老舗の飲食店が並ぶ東京・銀座。
年明けからの緊急事態宣言が続く1月下旬の平日午後、銀座を突き抜ける「中央通り」は、若者やシニア、ビジネスマンで意外にもにぎわっていた。
「2020年春の緊急事態宣言の時は全く人がいなくなり、映画のセットで作られたゴーストタウンを歩いているようだった。今回はたくさん人が出ているが、買い物をしている人は少ない印象」
銀座で100年超にわたり不動産業を営む小寺商店の児玉裕社長は、昨年春の緊急事態宣言との違いを語る。
4丁目交差点から1〜2分歩いた銀座5丁目の「銀座コア」ビルは開業50年だ。
1階には、あんみつ発祥で知られる、1894(明治27)年創業の喫茶店「若松」がある。ビルの建て替え計画がコロナの影響で進んでいないという。
さらに歩いて銀座6丁目にある大型商業施設「GINZA SIX(ギンザシックス)」は、もっと閑散としていた。
イタリアのヴァレンティノなど有名な高級海外ブランドの店舗が入っているが、買い物客より店員のほうが多くみえ、館内は静かだ。
ギンザシックスは1月26日に開業4年に向けて40店以上の大規模な店舗入れ替えを発表。コロナ禍の影響ではなく、開業当初からの契約更新のタイミングでの入れ替えによるものとしている。
しかし、店舗の顔ぶれからは、開業当初の高級嗜好(しこう)からは変化した状況がうかがわれる。
フランスのペランなどの海外老舗ブランドやビームス、マルティニークなど国内アパレルが撤退する一方、アメリカの宝飾品ブランドなど知名度が低い名前が並ぶ。
地下の食料品フロアには、イオン系の小型スーパーも入店が決まった。
不動産サービスのクッシュマン&ウェイクフィールドの須賀勲エグゼグティブ・ディレクターは、今回の入れ替えについて「ある程度の高級感は保っているが、知名度のあるメジャーはほとんどいない、ニッチな名前が目立つ。空室を出さないための努力がうかがわれる」と、指摘する。
◆イタリア高級店の閉店
銀座7丁目のZARA銀座店は、20〜30代の男女が途切れることなく出入りする。1万円以内で流行の上下の洋服を買うことができるのが人気の理由だ。
海外旅行を中止した分、自分の生活水準を維持できる範囲内で、衣服にお金をかけたいというニーズの受け皿になっているようだ。
しかし、大通りから一歩入った並木通りは対照的だ。
ゆっくり買い物ができる静かな場所として海外ブランドの店舗が建ち並ぶ通りだが、人出はまばら。
ビルの閉鎖された1階店舗に「管理物件」の張り紙がある。
イタリアのマックスマーラは冬用の婦人用コートが1着50万円以上する高級店だったが、1月12日に並木通りの店舗を閉店した。
柴又 「男はつらいよ」の舞台 川甚の閉店を惜しむ声
国民的人気映画「男はつらいよ」の舞台となった、葛飾・柴又。
かつては映画ファンをはじめとした多くの観光客でにぎわいをみせていたこの街もまた、コロナの影響を受けている。
緊急事態宣言下の1月下旬、柴又帝釈天の参道は、人通りこそあるものの、かつてのにぎわいは失われていた。
だんご店や土産店は、それでも声を掛け合いながら営業を続けているが、客足は芳しくない。
参道を抜け、江戸川に向かって歩いて行くと、約230年にわたり地元民に愛された料亭「川甚」が見えてくる。
店はコロナ禍で客足が減り、正常化への道筋が描けなくなったために、1月末で閉店した。
そんな老舗の閉店には、商店街関係者も動揺を隠せない。
参道にあるだんご店「亀家本舗」で働く女性は、「川甚の閉店は、ただただ寂しい。柴又一丸となって、なんとか頑張ろうとやってきたが、その中心の川甚が閉めてしまうのは本当に残念」と、悔しさをにじませた。
「今日が最後だと聞いて、来てみました。本当になくなってしまうのかと思うと、寂しいですね」と話すのは、近所に住む70代の男性だ。
最終日には、常連客や地元民などが店の前で写真を撮るなどし、老舗の幕引きを惜しんだ。
品川、横浜 大井競馬場 名物コーヒー店主の嘆き
大井競馬場(東京都品川区)内でコーヒーショップを経営する石井商事の石井幸男社長(74)は「売り上げは5分の1に落ちている」と嘆く。
大井競馬は昨年9月から観客の入場を再開した。ただ、入場者数には上限があるため、観客席はコロナ前の活気は戻っていない。
レースの合間にコーヒーを買い求める客の列もなくなった。1月からは再び無観客での開催に逆戻り。
石井社長は「先がみえない。お客さんが戻らない限りは商売にならない」と話す。
帝国データバンクは、外食事業を展開している上場企業のうち、月次売上高データが確認できる65社を対象に、昨年12月の全店売上高を集計した。
65社のうち、前年同月を上回ったのはテークアウトが好調な日本マクドナルドホールディングス(HD)やモスフードサービスなどわずか8社。
57社が前年同月の実績を下回り、このうち10社は半減以下となる厳しい結果となった。
ただ、コロナ禍をチャンスと捉え、新業態に挑戦する飲食店経営者がいる。
横浜市港北区ですき焼き店と焼き肉店の2店舗を経営する「One connections」の中村慎吾社長(46)は、テークアウトを主体とした総菜店を2月23日オープンする。
東急東横線綱島駅前に構える新店舗は、女性客を意識した「おしゃれな」カフェ風。注文が入ってから調理を始める「ツー・オーダー」のスタイルで、揚げたてのコロッケやメンチカツなどを1個150円から求めやすい価格で提供する。
作り置きが主体のスーパーやデパ地下と差別化を図り、売り上げを伸ばす狙いだ。
新業態の運営に乗り出すのは昨年4月の緊急事態宣言がきっかけだ。
中村社長が運営する2店舗は約1カ月半の間、休業を余儀なくされた。多くの飲食店と同様に、テークアウトの導入も模索したが「店舗と同じおいしさを担保できない」として断念した。
◆店舗と持ち帰りの二毛作
ただ、コロナがいつ収まるか不透明な状況の中、他業種を持つことが今後の会社経営の安定化につながるとの思いがあった。
顧客が求めているものは何か。考え抜いた結果が、家庭では手間がかかると避けられがちな揚げ物の販売だった。
約2000万円を投資して新店舗の開店準備を進める。コロナが収束に向かえば、店舗2階の飲食コーナーでアルコールを提供する計画だ。中村社長は「店舗とテークアウトの両方の利益が取れる『二毛作』にしたい」と意欲的だ。
(桑子かつ代、斎藤信世、神崎修一・編集部)
(本誌初出 2度目の緊急事態宣言を歩く=桑子かつ代/斎藤信世/神崎修一 20210223)