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国際・政治 東奔政走

続々と不祥事発覚で「菅おろし」一歩手前?違法接待疑惑で自民党の「菅離れ」が進む

総務省の秋本芳徳情報流通行政局長(左)は菅首相の長男による飲食代・タクシー代の支払いは認めた。もし「違法性」があれば政権が受けるダメージは大きい(国会内で2月5日)
総務省の秋本芳徳情報流通行政局長(左)は菅首相の長男による飲食代・タクシー代の支払いは認めた。もし「違法性」があれば政権が受けるダメージは大きい(国会内で2月5日)

菅義偉首相が逆風にあえいでいる。

首相の長男が関係する違法接待疑惑や、新型コロナウイルス対策の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の不具合、与党議員の深夜の銀座クラブ訪問が相次いで発覚した。まさに三重苦の様相だ。

『週刊文春』は2月3日、ウェブサイトに菅首相の長男が総務省幹部4人を接待していた疑惑を報じた。

長男は衛星放送やテレビ番組制作を手がける東北新社の社員で、同社幹部らとともに総務省幹部を接待し、タクシーチケットや手土産などを渡していた。

「身びいき」の代償

国会は来年度予算案を審議する衆院の予算委員会が2月4日から始まっており、立憲民主党の黒岩宇洋氏が事実関係をただすと、首相は「普段はほとんど会っていない。完全に別人格だ。そこはご理解いただきたい」と語ったが、長男と電話で話したことも認め、「調査が入ったら事実関係に対して協力するようにとは申し上げた」と説明した。

この問題の違法性は、接待に衛星放送事業を展開する東北新社の子会社幹部も同席していたことから、総務省幹部が国家公務員倫理法違反に当たる可能性がある点だ。

総務省は2月2日に人事院の国家公務員倫理審査会に報告し、接待の回数、金額などを調べている。同省幹部は「違法であれば処分は免れない」と語る。

共産党の志位和夫委員長が「放送行政がゆがめられたことがなかったか説明を求める。説明できなければ『既得権益の打破』の看板を降ろした方がよい」と述べるなど、野党は追及姿勢を強めており疑惑は長引く可能性がある。

国家公務員倫理法違反に該当すれば大きな問題だが、より本質的なのは首相の身びいきが明らかになったことだろう。

首相は総務相在任時に、長男を秘書官に登用。長男はその後、東北新社に入社しており、同社が長男の総務省人脈と首相の長男という出自に期待したことは想像に難くない。

首相は「秋田出身のたたき上げ」を売りにしてきた。上京し苦学の末に法政大を卒業、地縁も血縁もない横浜で市議から衆院議員さらに首相にまで上り詰めたというサクセスストーリーは、菅内閣発足時の高支持率の要因の一つだった。

「文春報道でそうしたイメージは大きく崩れるでしょうね」と自民党議員は語る。

安倍晋三前首相の倫理観はモリカケ問題、桜を見る会で大きく傷ついたが、違法接待疑惑も菅首相のイメージダウンにつながるのは必至だろう。

別の自民党議員は「『たたき上げ』のいい印象は消え、身内で利権をあさっている人物というイメージになりかねない。首相にとっては相当なダメージだ」と語る。

COCOAの不具合は、デジタル化を掲げる菅政権にとって大失態となった。

民間がリリースするアプリにも不具合は生じるが、接触が通知されないという根幹の不具合が4カ月にもわたって放置されるような事態は考えにくい。

首相は衆院予算委で「お粗末だった。二度とこうしたことがないように緊張感を持って対応したい」と語ったが、首相官邸関係者は「デジタル政府が聞いてあきれる。失った信頼を回復できるのか」と語る。

自民・公明両与党の議員による深夜の銀座訪問も菅政権にとって大きな痛手だ。

自民党では松本純元国家公安委員長と大塚高司、田野瀬太道両衆院議員が離党に追い込まれ、公明党の遠山清彦衆院議員は議員辞職し政界を引退する事態となった。

松本氏は問題が発覚した1月26日には「1人で陳情を受けていた」と説明していたが、その後、「後輩議員2人と訪問していたのが事実だ。前途ある有望な彼らをかばいたいと思った」と虚偽説明だったと謝罪した。

虚偽説明をしたことでさらに傷口を広げたことは間違いない。

古賀氏は「見切り」?

相次ぐ不祥事に加え、首相の発信・答弁能力にも疑問符がついており、自民党内では「菅離れ」が進みつつある。

まだ表だった「菅降ろし」の動きにはなっていないものの、自民党長老は「いまのような状況が続けば、党内は菅首相のままでは衆院選を戦えないという声一色になっていくだろう」と語る。

自民党議員は「菅首相誕生の流れを作った二階俊博幹事長がどう動くかが鍵を握るだろう」と推測する。

昨年の自民党総裁選で、二階氏はいち早く菅支持を表明し一気に流れをつくった。ただ、衆院選を取り仕切ることになる二階氏が、このまま首相を支え続けるかは見通せない。

「首相、二階さんと良好な関係の古賀誠元幹事長が、文春報道後に首相に見切りを付けたという話が党内で流れ始めた。二階さんと古賀さんが『ポスト菅』探しを本格化させれば、政局になりかねないだろう」と同党議員は語る。

新型コロナのワクチン接種が順調に進めば、支持率回復への道筋も見えてくるかもしれない。だが、ワクチン接種でまごつくようなことがあれば、「菅降ろし」が顕在化する可能性がある。

首相はまさに正念場を迎えた。

(高塚保・毎日新聞政治部長)

(本誌初出 “違法接待疑惑”でさらに逆風 進む「菅離れ」追い込まれた首相=高塚保 20210223)

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