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蓄電池 大容量型は日本勢が先行 ガイシ、住友電工、古河電工=和島英樹

蓄電池は再エネで発電したエネルギーをためて必要な時に使える
蓄電池は再エネで発電したエネルギーをためて必要な時に使える

 脱炭素社会の実現に向けて、二酸化炭素(CO2)を排出しない新エネルギーとともに鍵を握るのが、発電したエネルギーをためて必要な時に使うための大容量・高性能の蓄電池だ。(水素・電池・アンモニア)

 蓄電池の主流になる可能性がある技術がいくつか出てきており、いずれも日本メーカーが開発で先行している。具体的には「NAS(ナス)(ナトリウム硫黄)電池」「レドックスフロー電池」のほか、最近は、エネルギー密度で優れているとされる「バイポーラ型蓄電池」も登場した。

「NAS」 量産で先行、メガワット級

 NAS電池は、日本ガイシが世界で初めて実用化した。2002年に事業化し、翌年から量産を開始した。すでに20年近い歴史を持つNAS電池は、これまで普及のきっかけがつかめなかったが、近年の脱炭素の潮流によって、にわかに脚光を浴びた。

 負極にナトリウム、正極に硫黄、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いて、ナトリウムイオンと硫黄の化学反応で充放電を繰り返すNAS電池は、(1)大容量、(2)高エネルギー密度、(3)長寿命──が特徴の「メガワット級」の電力貯蔵システムだ。1メガワット=1000キロワットであるから、例えば、容量100メガワット時=10万キロワット時のNAS電池なら、約1万世帯の1日分のエネルギーをためられる計算になる。

 日本ガイシが生産しているNAS電池の大きさは、鉛蓄電池の約3分の1という小型サイズ。太陽光や風力の発電設備と併設して、国内外で200カ所の稼働実績がある。

「レドックスフロー」 大型施設・発送電向け

 一方、レドックスフロー電池はバナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用して充放電する蓄電池だ。住友電気工業が開発し、00年ごろから実験施設向けなどに販売を始めた。現在は、商業化に向けて実証実験が続けられている。

 レドックスフロー電池は、エネルギー密度が低く小型化には向かないが、構造が単純で再生可能エネルギーの蓄電などの大型施設向きだ。また、電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命で、発火性の材料を用いていないことや常温運転が可能で安全性も高いとされる。

 こうした特性から、電力系統向け、つまり電力会社が担う発送電・配電の際に使う蓄電池に適していると言える。

「バイポーラ」 コスト競争力に期待

 20年6月に古河電気工業と古河電池が、長年実用化が困難とされてきた次世代蓄電池「バイポーラ型蓄電池」を共同開発したと発表した。

 バイポーラ電池は、1枚の電極基板の表と裏にそれぞれ正極と負極を有するシンプルな構造に特徴がある。

 古河電工によれば、バイポーラ電池は、従来の鉛蓄電池と比べて材料の削減が可能で、エネルギー密度は従来の鉛電池の約2倍という。電極基板の積層化により、設計自由度の高い電池構成が可能となり、コスト競争力の改善が期待できるとしている。21年度中にサンプル出荷し翌年度から出荷予定だ。

 古河電工グループの主力商品である小型蓄電池「UltraBattery」(ウルトラバッテリー)にバイポーラ電池を採用する可能性もある。

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 古河電工によると、電力貯蔵用蓄電池市場は、30年に1.5兆円規模に迫るという。

 リサイクル性や設備の簡略化ではバイポーラ型が優位だが、NASが実績を積み上げており一歩先を行く。レドックスフローは安全性で一日の長がある。勝者は現時点では分からないが、急成長する蓄電池市場の主流の座をめぐって、開発競争が加速していくと見られる。

(和島英樹・経済ジャーナリスト)

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