経済・企業急成長! 水素・電池・アンモニア

アンモニア発電に商機 燃料、タービンの大需要期 JERA、三菱パワー、川重、IHI=和田肇

 国内最大の火力発電会社JERA(ジェラ)(東京電力ホールディングスと中部電力の合弁)は昨年10月、「2050年にCO2排出を実質ゼロ」にすることを発表した。

 JERAは国内に27の火力発電所を持ち、設備容量は約7044万キロワット(20年時点、以下同)に達する。主力は天然ガス火力(5007万キロワット)で、石炭火力は1032万キロワット、重油・原油火力を1005万キロワット持つ。同社のCO2排出量は、年間約1億6000万トン(19年度)に上る。

 石炭火力のうち、政府の石炭火力廃止計画の対象外となる、超々臨界圧(USC)型石炭火力以上の高効率型が892万キロワットもあり、石炭火力のCO2削減は喫緊の課題だ。同社のカーボンゼロ計画では、30年代前半に全ての石炭火力でアンモニアを20%混焼するとしている。

 21年度からは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と協力して、愛知県の碧南火力5号機(石炭100万キロワット)で、アンモニア混焼試験を行うと見られる。実施にはボイラー燃焼器の改修だけでなく、アンモニア燃料受け入れ施設(タンカー接岸設備、貯蔵タンク、気化器など)の建設が必要で、「これらの整備に約3年はかかる」(JERA経営企画本部・尾崎亮一氏)見通しだという。水素混焼の試験も行うものと見られており、新名古屋火力発電所などが候補に挙がっているようだ。

大型タービン25年登場か

 大型タービンの分野では、三菱パワーがアンモニアから水素を取り出して燃料に使う取り組みを進めている。同社は電力会社向けの大型ガスタービンで大きなシェアを持つ。同社によると、大型ガスタービンでアンモニアを使う場合、アンモニアの燃えにくさや大気汚染物質である窒素酸化物(NOX)が大量に発生する問題から、タービンの燃焼機構を複雑にする必要があり、コスト面でハードルが高くなるとしている。このため、大型ガスタービンで発生する大量の排熱をアンモニア分解に有効利用すれば、水素を低コストで分離でき、設備をより効率的に運用できるという。

 三菱パワーは、水素ガスタービンを武器に、年間3000億~5000億円とされる世界のガスタービン市場でシェア拡大を目指す。同社によると、中小型まで含めた世界のガスタービン市場では、米ゼネラル・エレクトリック(GE)とシェアを3分の1ずつ分け合っており、水素ガスタービン開発でもGEとしのぎを削っている。

 その中で同社が開発に注力するのが、タービンに付属する水素100%専焼用の「マルチクラスタ(DLN)」(図)と呼ばれる燃焼器だ。25年ごろには実用化に結び付けたいとしている。水素と天然ガス混焼用の燃焼器は、18年に試験を終え、NOX発生も国の基準以下を達成している。

 同社によれば、発電所向け大型ガスタービンは、従来型も水素型も基本的な構造はほぼ同じで、付属する燃焼器が、天然ガス用か水素用かの違いしかないという。発電所向けガスタービンの価格は、1基数百億円とされるが、同社では「燃焼器を水素用に改造すれば、既存のガスタービンをほぼそのまま使える。改修費用は数億円程度」(谷村聡技監)としている。

 ただ、水素の燃えやすい性質から、水素100%燃焼器の開発では、機器内部の火炎が逆流する「フラッシュバック現象」などの課題もある。同社によると、すでに燃焼ガス温度1800度で火炎逆流のない安定燃焼に成功しているという。

中・小型タービンも期待

川重とNEDOが設置した水素ガスコージェネレーション設備 川崎重工業提供
川重とNEDOが設置した水素ガスコージェネレーション設備 川崎重工業提供

 小型ガスタービンの分野では、川崎重工業が2017年から18年にかけて、神戸ポートアイランドで、水素を100%燃料に使う熱電併給(コージェネレーション)設備の実証試験を行った(写真)。設備能力は電力1100キロワット・熱2800キロワットで、付近のスポーツセンターや病院に電気と熱を供給した。

 中型では、IHIが昨年10月、同社の横浜事業所でアンモニアと天然ガスの混焼試験を開始した。使用するガスタービンは2000キロワット級で、アンモニアはサウジアラビアの「ブルーアンモニア」(生産過程で発生するCO2を分離・回収)を使う。石炭との混焼は、同社の相生工場(兵庫県)の試験設備で既に実施している。

(和田肇・編集部)

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