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国際・政治 脱炭素

「カーボンゼロ」を法律に明記 政権変わろうとも必達の目標=南野彰

グリーン産業革命は起こるのか(グリーン成長戦略を決定した首相官邸での会議=2020年12月25日)
グリーン産業革命は起こるのか(グリーン成長戦略を決定した首相官邸での会議=2020年12月25日)

 政府は昨年12月25日、菅義偉首相が宣言した「2050年カーボンゼロ」を具体化するための「グリーン成長戦略」をまとめた。温室効果ガス排出量の中心となるエネルギー起源二酸化炭素(CO2)を2018年の10・6億トンから実質ゼロにするという野心的な目標だ。

 ポイントは電力(発電)部門をほぼ全て「脱炭素電源」にすることで、電力部門の抜本的な排出削減をする一方で、これを非電力部門の抜本的な排出削減にもつなげる。さらに非電力部門は、水素や合成燃料の使用、CO2の地下貯留や森林吸収などによって、実質的に排出ゼロを実現する(図)。

 菅首相がカーボンゼロを打ち出した背景には、環境政策を重視する米バイデン政権の誕生や脱炭素分野で自らに有利な国際スタンダードを確立したい欧州連合(EU)の動きがあると思われる。しかし、日本は「1滴を絞り出す」省エネルギー対策は得意だが、産業構造のパラダイムシフトを伴うような大胆な施策を導入した経験はなく、カーボンゼロは非常に困難な取り組みといえる。

 こうした事情から、今回の排出削減対策では、これまで産業界が強く反対してきたものも多く含まれている。だが、それらの施策はカーボンゼロ実現の成否を握るといってもよいものだ。一体どのような施策なのか、以下に三つの主要施策を挙げてみたい。

異例「法律に数値目標」

 異例の施策として、環境関係者を中心に驚きの声があがっているのが、環境省が検討中の「地球温暖化対策推進法」(温対法)の改正だ。同法は日本の温暖化対策の大本となるものだが、同省は法律の条文に「2050年までに日本全体でカーボンニュートラル実現(カーボンゼロ)」を明記する考え。小泉進次郎環境相はその狙いを「(削減目標を)閣議決定方式ではなく法律に基づくものにすることで、政権交代が起きても政策の継続性をより強固に確保できる」(昨年12月25日の記者会見)とする。1月18日から始まる通常国会に提出予定だ。

 日本全体の排出量(削減目標)を年限を区切って条文に明記するのは異例の措置。特に経済産業省が管轄するエネルギー政策に決定的な影響を及ぼす。

 国のエネルギー政策は「エネルギー基本計画」(閣議決定事項)に集約されるが、同計画の基本方針は「安定供給」「経済効率性」「環境」「安全」の四つ。50年カーボンゼロが法律に明記されれば、「環境」の重みが格段に増し、化石燃料の使用や電源構成、省エネルギー対策など一連の目標値が軒並み上方修正を求められる。

 さらに、法律明記でエネルギー政策に温対法の“たが”がはめられることになり、経産省と環境省の力関係が逆転する可能性もある。エネルギーは経産省の守備範囲。これまでは、大胆な排出削減を求める環境省に対し、「そこまではできない」とする経産省の主張に沿って決着するパターンがほとんどだった。

「絶対反対」の排出量取引も

 次に注目されるのが、「カーボンプライシング(炭素の価格付け)」だ。昨年12月25日に策定された「グリーン成長戦略実行計画」に本格検討が明記された。カーボンプライシングとは、CO2に価格をつけ、排出量取引や炭素税などの手法を通じて排出削減を誘導する。産業界にとっては、事業活動にCO2排出枠をはめられ、かつ炭素価格を負担することになる。

 カーボンプライシングの歴史は古い。日本では1997年の地球温暖化防止京都会議(COP3)直後から議論が起きているが、産業界は一貫して反対の姿勢。環境省の過去の審議会でも怒号が飛び交う難しいテーマとなっていた。

 排出量取引はEUと韓国がすでに導入しており、日本は炭素税に関して、12年に「地球温暖化対策税」(石油石炭税に上乗せ方式)として導入した。ただし、同税の税額はCO2排出1トン当たり289円と欧州各国に比べて大幅に低く、環境省は排出削減の市場メカニズムが十分発揮されていないとして、排出量取引と合わせた“大型炭素税”の検討を昨年まで続けていた。

 今年から始まる本格検討は、環境省と経産省が共同で行う予定。一部では、経産省はエネルギーよりカーボンプライシングを重視しているとの見方もあり、主導権をどちらの省が握るのか、激しい議論になりそうだ。

発電「主役」を交代

 最後は経産省が電力分野で導入に取り組んでいる「FIP制度」と「コネクト&マネージ」(詳細は後述)だ。

「FIP」(市場直接取引優遇)とは、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)を市場で売買し、その売電収入に補助額を上乗せする。補助金をつけることで、再エネ売却のインセンティブをつける狙いだ。従来の再エネ普及制度(FIT)は、再エネの電力を電力会社が一定価格で全て買い取る仕組みだった。

 FIPで重要なのは、企業が最近のESG(企業の環境・社会・統治)投資ブームに対応するために、再エネが調達しやすくなる点だ。産業界の電力ニーズは、従来の「安定・安価」に加えて「環境」も重視するトレンドに変わりつつあり、むしろ産業界が積極的に再エネを求め始めている。

 コネクト&マネージとは、事故に備えた送電線の空き容量を条件付きで開放し、再エネの接続量を大幅に増やす取り組み。通常、国内外を問わずほぼ全ての送電線は、事故による停電に備えて送電容量の約半分しか使わないことを原則としている。送電設備・容量は電力会社の全発電設備がフル稼働した状態に合わせて設計されている。

 従来は電力会社の原発や火力発電などを優先して送電線に接続し、残りを再エネに割り当てていたが、コネクト&マネージにより、再エネをなるべく多く接続し、状況によっては原発・火力の割り当てを制限する。いわば「発電の4番バッター」を原発・火力から再エネに交代させる取り組みだ。経産省は今年中にもコネクト&マネージの手法の一つである「ノンファーム型接続」契約が全国でできるよう準備を進めている。

(南野彰、エネルギー・環境ライター)

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