すでに日本車は競争相手にすらならない……トヨタ越えを果たしたテスラが中国市場でも断トツ 電池もパナソニックから韓国LGや中国製に切り替え独走態勢の予感
時価総額でトヨタ自動車を上回り、独走を続ける米電気自動車(EV)メーカー、テスラは2021年にEVの生産能力100万台を目指している。世界最大の新車市場である中国ではEV生産能力50万台を誇る同社の巨大工場ギガファクトリー3の稼働を皮切りに、テスラがEVでガソリン車を中心とする中国自動車市場に風穴を開けることがいよいよ現実味を帯びてきた。(沸騰!脱炭素マネー)
その野望を実現する鍵となるのは、電池の安定調達だ。テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、今年7月22日の決算発表で「安価な電池の生産が不可欠だ」と発言し、リチウムイオン電池(以下、電池)調達の重要性を強調した。中国では、テスラの躍進で地場のガソリン車メーカーに危機感が広がる一方、EV性能を左右する電池の技術進化やコストダウンが期待される。
「EVシフト」で思惑が一致
パリ協定が合意された15年を境にして、脱炭素社会を目指す中国は30年までに国内総生産(GDP)当たりの二酸化炭素(CO2)排出量を05年より60~65%削減する目標を掲げている。
中国はこれまで経済発展を優先した結果、環境問題の対応で世界の批判を浴びてきた。中国都市部のPM2・5発生の主要な原因は自動車による排ガスであり、大気汚染の問題からもこれ以上ガソリン車を増やせない状況だ。また中国の石油輸入依存度は20年に70%を超えたことから、石油依存から脱却するというエネルギー安全保障戦略でも脱ガソリン車が課題となっている。さらに、ガソリン車では優位性のない中国が自動車産業の国際競争力を構築するためには、EVは絶好のチャンスでもある。そのため中国は国を挙げて「EVシフト」を奨励している。
新型コロナによるEV市場の低迷が懸念されたが、20年末に終了予定だったNEV(EV、プラグインハイブリッド、燃料電池車)に対する補助金政策の2年間の延長を決定。自動車メーカーにとっては安心材料となった。
中国でのテスラの成長は、実は中国が計画的に後押ししてきたものだ。EVシフトを目指す中国政府は18年6月、市場開放政策としてEV市場における外資の出資制限を撤廃。外資の優良メーカーを引き込みたい政府と独資にこだわったテスラの思惑が一致し、政府幹部の面談などを経て同社が外資独資での進出第1号となった。
翻弄されるパナソニック
EV業界関係者の最大の関心事は、「テスラがEVの性能とコストを左右する電池の調達を今後どこに任せるのか」ということだ。これまでパナソニックがテスラに電池を独占供給してきたが、テスラ上海工場のモデル3の生産では米国ギガファクトリーで作られたパナソニック製の電池が採用された。モデル3の初期ロットは約5000台程度と推測され、品質や安全性の確保の理由があったと考えられる。しかし、20年2月に生産したモデル3の電池の搭載状況を見ると、テスラはパナソニック製電池から一気に韓国最大手のLG化学の電池(南京工場生産)に切り替えている。
テスラのインパクトは大きい。20年1~7月、ギガファクトリー3で生産したモデル3の販売台数は中国EV乗用車シェア17%を占め、地場ブランドを大きく引き離している(図1)。中国電池市場を見ると、CATLが47・6%、BYDは13・7%のシェアで、上位2位を占める。販売好調のモデル3に供給するLG化学、トヨタに供給するパナソニックがその後に続く。トップ4社の合算シェアは77・5%となり、業界の寡占化が進んでいる(図2)。
テスラのライバルはBMWなどの外資系高級車メーカーだ。テスラが中国車載電池最大手のCATLに電池調達の意向を示したのも中国市場で勝ち続けるためには低コスト電池の安定調達が重要との判断がある。テスラはCATLが提示した市場平均より割安のリン酸鉄電池価格に対し、さらに20%の値引きを要請し、CATLはそれに応じた。
業界の動きは激しく、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が5月に出資した中国3位の電池メーカー国軒高科は、航続距離400キロ超を可能とする低価格リン酸鉄電池を量産開始したほか、中国中堅電池メーカーのファラシス・エナジーが7月にメルセデス・ベンツから約3%出資を受け入れ、高級車向けの電池開発を始めている。また、中国電池大手のBYDは、「ブレード電池」と名付けた、現行比で30%のコスト削減となる新型リン酸鉄電池を発表し、復権を狙っている。
日本勢も電池を意識
トヨタは今年に自社初の中国産EV「C−HR」「イゾア」、レクサスブランド初のEV量産車「UX300e」の投入により、すでに中国向けEVとして「シルフィゼロ・エミッション」を投入した日産自動車、「X−NV」を投入したホンダとの差を一気に縮めた格好だ。CATLやBYDと提携を結んだトヨタ、中国中堅電池メーカーSunwodaとe−POWER向け電池開発を行う日産、CATLに560億円出資を発表したホンダ、中国EV市場に出そろった日本の「ビッグスリー」は生産拠点、電池の調達先として中国を強く意識している。
「電池を制するメーカーがEV市場を制する」との認識のもと、大手電池メーカーを牛耳ろうとするテスラは電池技術の向上を通じて、EVで自動車市場の破壊的イノベーションを起こそうとしている。今後、欧米メーカーは中国でコストパフォーマンスの高いEVを投入し、一気に中国市場に浸透していくと思われる。
目先はガソリン車、ハイブリッド車などが混在する形で推移しながらも、35年にはEVが中国の主流になると見込まれる。日本自動車メーカーが中国の地場メーカーに加え、欧米勢と戦うためには、次世代通信規格5GやGPS(全地球測位システム)などを活用した「コネクテッド」や自動運転など新たなモビリティー社会の需要を見据えて、大胆な戦略転換が必要になるだろう。
(湯進・みずほ銀行法人推進部主任研究員)
(本誌初出 テスラ EV制覇へ中国と二人三脚 出し抜かれる日独メーカー=湯進 20200915)