経済・企業沸騰! 脱炭素マネー

環境対応が遅れる日本企業から投資家が資金を引き揚げている……石油メジャーでさえ「再エネ転換」を宣言 環境対応できない企業には淘汰の道が待っている

脱炭素戦略を発表した英BP(Bloomberg)
脱炭素戦略を発表した英BP(Bloomberg)

 石油メジャーの英BPが2020年8月4日に発表した20年第2四半期決算(4~6月)は、最終損益は過去最大の67億ドル(約7085億円)の赤字に転落、配当も10年ぶりに減らした。新型コロナウイルス禍で、石油の需要が蒸発したことが主な要因だ。それにもかかわらず同日のロンドン株式市場のBP株価は前日比6・5%上昇した。これは決算と同時に発表した同社の脱炭素・再生可能エネルギー強化戦略を市場が評価したことが理由だ。(沸騰!脱炭素マネー)

 同社は30年までに再生可能エネルギーの発電所などを中心とした年間の低炭素関連事業投資を現状の10倍となる約50億ドル(約5300億円)に拡大する。さらに30年までに開発する再エネ累積導入量を19年比20倍となる約5000万キロワットとする目標を掲げた。出力ベースで原子力発電所に単純換算すると50基分に相当する。

 再エネ以外にも水素やCCUS(二酸化炭素の貯蔵・利用)事業も手がけていくという。そして、石油・天然ガスの生産量を19年比40%減にあたる日量100万石油換算バレル減らし、石油・天然ガス生産で生じる二酸化炭素排出量を30年までに最大40%削減する方針も示した。

 同社のバーナード・ルーニー最高経営責任者(CEO)は会見で「当社は1世紀以上にわたり、国際的な石油会社であった。しかし今後は、再エネ事業を柱とする総合エネルギー企業になるために力を入れていく」と強調した。

 BPの低炭素関連事業への大胆なシフトには、世界中で急膨張する脱炭素マネーと環境をテーマにした規制の強化が背景にある。製造過程など、事業活動を通じて生じる二酸化炭素排出量が膨大である化石燃料に依存してきたエネルギー業界は、事業を持続可能にしていくため大きく変わらざるを得ない状況に置かれているのだ。

シェル、エンジーの本気度

 世界をみるとBP以外にも多くのエネルギー会社が生き残りをかけて脱炭素事業戦略の動きを加速させている。英・オランダ系石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルは20年4月に50年までに製品の製造過程で生じる二酸化炭素を実質ゼロにする削減目標を発表し、気候変動問題への取り組みを強化している。

 同社は洋上風力発電事業などの再エネ事業にも積極的だ。さらに同社グループはカーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)を販売している。カーボンニュートラルLNGは天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する二酸化炭素排出量分を、二酸化炭素排出削減証書購入により相殺(カーボン・オフセット)し、排出量が実質ゼロとなるLNGだ。東京ガスは実際にこのカーボンニュートラルLNGを購入して事業に活用している。

 仏のエネルギー企業エンジーも脱炭素事業にシフトしている。同社はフランスガス公社(GDF)と水道事業などを手がけていたスエズと合併したガス事業と電力事業を柱とする総合エネルギー企業だ。欧州、中南米など世界70カ国で事業展開しており、電力事業は天然ガス火力発電と再エネ発電を軸に供給している。21年までに再エネの累積導入量は原発33基分の3300万キロワットを達成する見通しだという。

 同社は20年7月に再エネ投資を加速する事業戦略を発表。再エネ導入量目標を中期的に平均で毎年400万キロワットに増やす。さらにバイオガスと水素技術開発に力を入れるという。同社は再エネ投資の資金として、非中核事業や少数株主持ち分を売却する方針だ。これらの売却により最大で約80億ユーロ(約1兆円)を調達して、再エネ開発を中心に事業を選択していくという。

「撤退対象」の日本企業

 脱炭素事業戦略が遅れている企業が最も恐れているのが投資家によるダイベストメント(投資撤退)だ。世界では気候変動問題を懸念して化石燃料関連企業へのダイベストメントを宣言している機関投資家・金融機関が拡大し続けている(図)。ダイベストメントは非倫理的または道徳的によろしくないと思われる株、債券、投資信託などの金融資産を投資家・金融機関が売却することを意味する。近年は石炭産業だけでなく石油産業にもダイベストメントの動きは波及している。

 脱炭素マネーに関する助言などをする国際NPOのアラベラ・アドバイザーズによると化石燃料へのダイベストメントを宣言した世界の投資家・金融機関は14年9月時点で181機関・運用資産額総計は500億ドル(約5兆5000億円)だったが、18年9月時点では約1000機関・6兆2000万ドル(約650兆円)に急増。同NPOのダイベストメント調査報告は2年に1回のペースで行われるため、20年中に発表されればさらに拡大しているとみられる。

 影響はじわじわと日本企業にも及んでいる。ノルウェーの生命保険大手KLPは20年6月に化石燃料関連事業などの12社を投資対象から除外したと発表した。12社の中には日本の石油資源開発が含まれている。KLPは19年にもアルコールとギャンブル関連の企業からの投資撤退を決めており、キリンホールディングスや二輪レースを手掛けるよみうりランドなどが該当している。

 さらにアイルランドの政府系投資ファンドは19年1月に38社の化石燃料関連銘柄のダイベストメントを完了したと発表。売却額は6800万ユーロ(約85億円)に及ぶという。同投資ファンドは今後投資しない化石燃料関連企業のリストを作成しており、19年12月末時点の同リストには、中国電力、国際石油開発帝石、Jパワー、北陸電力、北海道電力、出光興産、ENEOSホールディングスと日本企業7社の名前が並ぶ(表)。

 多くの日本企業は海外投資家からの資金調達を頼りにしている。日本企業も脱炭素マネーとはもはや無関係ではいられず、対応が遅れることは致命的なダメージにつながりかねない。

(南野彰、エネルギー・環境ライター)

(本誌初出 石油メジャーが再エネ企業に変身 化石燃料から逃げ出す650兆円=南野彰 20200915)

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