経済・企業不動産コンサル長嶋修の一棟両断

「コロナによって東京から人口流出が起きている」は事実ではなかったというこれだけの理由……むしろ加速する一極集中とバブル経済化

 新型コロナウイルスの感染拡大で「東京への人口流入が止まった」「東京への一極集中を変える歴史的転換点の可能性」との報道が散見される。確かに東京都の住民基本台帳を見ると、今年6月の人口流入数はマイナスで、7月も鈍化しているように見える。

 私たちは、在宅勤務が増えれば「都心一極集中の流れが途絶える」と連想しがちだ。実態はどうか。その内訳を見てみると、人口流入が減っているのは外国人で、日本人の流入は変わらず増加している(図1)。実際、あなたの身の回りにコロナを契機に都心部から郊外や地方への移住を決めた知り合いは、何人いるだろうか。もちろんその数はゼロではないだろう。また、一時は都心からの脱出を検討した人も一定数はいるはずだ。しかし、そのような動きはほとんど起きていないのが実態だ。

 むしろ、在宅勤務の浸透で通勤時間の無駄が浮き彫りとなり、「勤務先に近いところに住みたい」「電車などでの密を避けたい」との声のほうが圧倒的に多いことを、「さくら事務所」は実感している。

 新築マンション販売の現場では、コロナによる緊急事態宣言下で販売センターなどを閉鎖したため、取引件数が減少した。中古マンション市場も、売り手、買い手ともに様子見の気配が広がり、宣言中に首都圏の取引件数は50%も減少、1平方メートル当たりの成約単価が下降に転じる地域もあった。その後はどうか。7月は前年同月比2・4%減にまで回復。成約単価も同4・7%増となった。

 中古マンション市場は日経平均株価との連動性が高い(図2)。都心3区(千代田区、中央区、港区)は特にその傾向が顕著である。株価は今年3月に1万6000円台へ下落した後、日米欧が財政出動や金融緩和をしたため、リーマン・ショック時のような金融システム崩壊は回避された。そして8月25日時点で2万3000円台と、コロナ前の水準に戻している。国内総生産(GDP)の伸びは一時的に大幅鈍化しているが、株式や不動産、金(ゴールド)などの資産価格は損なわれていないのだ。

 この状況を「バブルだ」と捉える人もいる。しかし、日銀の資産は668兆円(8月20日現在)と、民主党から自民党への政権交代以降で500兆円以上も膨らんだ。市場にマネーがあふれているのは今に始まったことではない。日銀は、買い込んだ日本国債やETF(上場投資信託)などを、資産市場や金利に大きな影響を与えずにどう処理するのか。その出口戦略は黒田東彦総裁にも見渡せないはず。もう、行けるところまで突っ走るしかないのだろう。「資産バブル」はずっと前に発生しており、1986年から90年ごろと同じようないわゆる「バブル経済」に突入したと見るべきだろう。

(本誌初出 コロナでも止まらぬ都心一極集中/61 20200915)


 ■人物略歴

ながしま・おさむ

 1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立

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