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投資・運用 コロナ激変 不動産

そんなバカな?コロナでも新築マンションは暴落しないと判断しうる3つの理由

新築マンションは暴落しにくい
新築マンションは暴落しにくい

 経済に大きな影響を与える出来事が生じると、「不動産価格暴落」の予測が出てくる。2008年のリーマン・ショックの後も、11年の東日本大震災の後も……。が、いずれも「暴落」は起きなかった。今回のコロナ禍でも「暴落」の予測は出ているが、その可能性は低い。ここでは新築マンションの市況を例に挙げて、その根拠を解き明かしたい。

6月は予想以上に好調

 4月の緊急事態宣言で扉を閉ざしたマンション販売センターが、6月から順次、営業を再開した。販売センターでは感染予防の観点から、1日の来場者を制限。内覧から引き渡しまで、すべて「非対面」で完結させる手法も一部で始まった。

 まず動き出したのは、3LDKが3000万円台で購入できる郊外物件だ。東京都町田市の「リーフィアレジデンス橋本」や、さいたま市の「ウエリス浦和美園」には予想以上に来場者が集まり、契約率も上昇した。

 不動産経済研究所の発表によると、首都圏で6月に発売された新築マンション戸数は1543戸(前年同月比31・7%減)。緊急事態宣言下の4月が686戸(同51・7%減)、5月が393戸(同82・2%減)だったのと比べると、大幅な増加だ。しかも契約率(その月に販売が開始された戸数のうち月末までに契約申し込みがあった戸数の割合)は73・2%と、前年同月比で7・3ポイントもアップしている。

 7月に入ると、今度は「都心のマンション販売センターにも、来場者が増えてきた」という現場の声が聞こえ始める。コロナ禍で、都心に住みたがる人が減ると考える人が多かった。しかし実際には、6000万円台で購入できる3LDKや5000万円台2LDKの売れ行きが伸びているという。

 7月以降、都心への通勤ラッシュが復活。大学ではオンライン授業が続いているため、学生がいない分、以前よりゆとりがあるように感じるが、感染の心配が頭をよぎるほどの混雑ぶりだ。長い通勤時間を回避するため、都心に近いエリアの人気が復活したと推測できる。

 都心近くで6000万円台3LDK、5000万円台2LDKを購入できるのは、JR山手線のちょっと外側の23区内エリアだ。湾岸の東雲エリアやJR京浜東北線大井町駅エリア、江戸川区や墨田区、足立区などだ。具体的には「シティタワー大井町」「プラウドシティ東雲」などで来場者が増えている。

 こうしたマンションが人気なのは、「価格が下がった」からではない。4月と5月、新型コロナウイルスの影響でマンション販売がストップし、誰もが価格の暴落を予想した。だが実際には、ここまで大きな値下げは行われていない。なぜなのか。

10年でも「新築」

 理由の一つ目が、新築マンションのデベロッパーが大手中心になっていることだ。

 一度値下げに踏み切れば、値下げ合戦が生じ、第2弾、第3弾の値下げを求められることになる。いわゆる負の連鎖が起きてしまう。現在の新築マンションの分譲ビジネスは恐ろしく利益率が低く、2割を割り込むのが普通だ。5000万円のマンションでも、粗利は1000万円以下。1割の値下げで、純利益が消えてしまう。当然、デベロッパーは極力値下げはしたくない。

 幸い、リーマン・ショックによって新興の不動産会社は淘汰(とうた)され、残っているデベロッパーは体力のある大手が中心だ。分譲事業だけでなく、賃貸事業、商業施設の運営、ロジスティックの拠点や倉庫の運営も行っている。マンション販売がしばらく滞っても、持ちこたえることができる。

 二つ目の理由は、この数年来の供給減だ。最盛期、首都圏で年間6万戸以上のマンションが売り出されたが、昨年、一昨年は3万戸台まで減少。今年はもともと3万戸を切ると予想されていたところ、コロナ禍で2万戸程度、つまり最盛期の3分の1以下まで減る可能性がささやかれている。

 そもそも、「暴落」は需要と供給のアンバランスによって生じる。買う人が減っているのに大量供給されれば、売れ残りが大量に生じ、大幅な値引き販売が始まる。コロナ禍の現在、供給はかなり絞り込まれている。それが、暴落が起きない二つ目の理由である。

 生鮮食料品と異なり、マンションの“賞味期限”は恐ろしく長い。「新築用の住宅ローンが利用できる期間は『新築』である」という考え方が不動産業界にはある。実際、住友不動産では「新築」として10年間販売が続けられた物件がある。しかもその間、分譲価格は上がり続けた。「時間をかけて売るのも悪くない」と他社も気づき、以後、販売が長期化するマンションが多くなったとされる。

 供給戸数が少なくなった新築マンションを、体力のある大手デベロッパーが時間をかけて売る。「暴落」が起きないのは当然だ。

 そして、住宅ローンの金利が圧倒的に低い水準であること、過去最大規模の住宅ローン控除が継続していることが三つ目の理由だ。

 リーマン・ショック後の09年の首都圏における新築マンションの平均価格は4500万円程度だった。それが昨年は6000万円程度まで上昇した(図)。一方、低金利や住宅ローン控除のお陰で、購入時の利息も含めた支払総額は、この10年でさほど増えていない。

 低金利、高住宅ローン控除が続く限り、「家賃を支払うより分譲を買った方が得」という論法が生き続ける。これは賃貸住宅の利用者の持ち家志向を下支えする。

 分譲マンションの需要は消えない。マンション供給戸数が減っている現在、需要がある限り、値下げせずに完売まで持っていくことができる、と考えられているわけだ。

 といっても、これから先の不安材料がないわけではない。たとえば今後、株価が大きく下がり、「二番底」といわれるような状況になれば、マンション市況への影響も大きくなると考えられる。

ホテル不振どう影響

 景気の低迷が長く続けば、ホテルやオフィスの需要が減り、地価が下がる。コロナによって観光業界が大打撃を受ける中、一部施設の身売りを検討するホテル業者も出始めている。「よかったら買いませんか」という打診が、不動産会社各社に来ているという。提示価格はまだ高く、不動産会社は手を出しかねているが、不況が更に進み、今より2割、3割と安い値段でホテル用地が売りに出されるのなら買ってもいい、と考えている。

 都心の新築マンション価格は既に一般には手の届かない金額になっている。安く土地を買えれば、その分コストが抑えられ、販売しやすくなる。

 新型コロナの特効薬やワクチンが開発されれば、世の中も経済も元に戻る。そのときのために、安く取得できる土地があれば積極的に買っておきたい。それが、大手デベロッパーの本音である。

(桜井幸雄・住宅ジャーナリスト)

(本誌初出 新築 (1)大手が販売(2)戸数縮小(3)低金利 で暴落しない=桜井幸雄 20200901)

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