国際・政治チャイナウオッチ 中国視窓

トヨタでさえEVを進めているのに……中国がいまさら「水素」に注目するのはなぜか

    太陽光発電パネルの下で、充電している電気自動車。普及に弾みがつくかも?(Bloomberg)
    太陽光発電パネルの下で、充電している電気自動車。普及に弾みがつくかも?(Bloomberg)

     欧州が、新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ経済の復興と低炭素社会への移行を両立させる「グリーン・リカバリー」政策を掲げている。中国はそうした呼び方はしないものの、中国版とも言える政策を打ち出している。

    新エネ車の普及

     5月に開催された全国人民代表大会(全人代=国会)に提出された「政府活動報告」では、単位国内総生産(GDP)当たりのエネルギー消費量と主要汚染物質の排出量を引き続き減らすと基本方針にうたい、「新型インフラ」の整備に重点を置いた。

     具体的には、次世代通信規格「5G」の基地局やデータセンターの建設を通じて情報ネットワークを拡充し、生産性を改善することや充電スタンド整備によって新エネ車を普及することなどを掲げている。4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比3・2%と、2四半期ぶりのプラス成長に転換。中国は新型コロナの感染拡大を世界に先駆けて収束させつつある。

     過去を振り返ると、リーマン・ショックからの復興途上だった2010年、省エネ・環境保護産業を国家の「戦略的新興産業」の一つと位置付け、再生可能エネルギー分野などに積極的な投資を行ってきた経緯がある。中国電力企業連合会によれば、発電量に占める再エネ(水力、風力、太陽光)の割合は、09年の16・3%から19年には26・4%と、この10年間で10ポイント超も上昇している。

     こうした流れの中で、三菱UFJ銀行が今年7月、中国で環境保全を進める企業の資金調達を支援するため、総額50億元(約750億円)の「グリーンクレジットファンド」を設立するといった動きも出ている。

     とはいえ、中国版グリーン・リカバリーの推進に向けた課題は少なくない。中国の環境政策を担う黄潤秋・生態環境相は全人代の際の記者会見で「(1)産業構造は重化学工業、エネルギー構造は石炭が主、(2)環境汚染と生態環境が深刻、(3)環境事故の発生リスクが高い、という『三つの状況』は根本的に変わっていない」との認識を率直に表明した。

     他方、注目されるのが、4月に法案が公表された中国のエネルギー政策の基本法とも言える「中華人民共和国エネルギー法」。意見公募は既に締め切られ、今後法制化が進む予定だ。同法は再エネを優先発展分野と位置付けており、中国の低炭素社会の構築をさらに加速させると見込まれる。

     加えて、同法は危険物として厳しい安全基準で扱われてきた水素をエネルギーの定義に含めており、今後導入が進む契機となることも予想される。トヨタ自動車は6月、中国における水素社会の実現に向けた燃料電池車(FCV)の普及に努めるべく、中国系企業5社との合弁により、燃料電池システムの研究開発会社を総投資額約50億円で北京に設立すると発表したが、こうした動きを後押しすることも期待される。

     いずれにしても、中国は世界最大の1次エネルギー消費国、二酸化炭素(CO2)排出国であると同時に、再エネ分野における最大の投資国でもある。ポストコロナを見据えた低炭素社会の行方は中国にかかっているといっても過言ではない。

    (真家陽一・名古屋外国語大学教授)

    (本誌初出 中国版「グリーン・リカバリー」 “水素社会”へ法整備で加速=真家陽一 20200901)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月8日号

    もうかるEV(電気自動車)、電池、モーター14 「電動化」が業績・株価を左右 「次の勝者」探しも活発化 ■神崎 修一/桑子 かつ代/斎藤 信世16 巨人の焦り トヨタから「自動車」が消える日 ■井上 久男18 自動車部品 日本電産が台風の目に ■遠藤 功治20 図解 EV用電池「国盗り物語」 ■編集 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事