国際・政治

MMTによる究極の経済政策「JGP」を日本に導入せよ=今枝 宗一郎(自民党衆議院議員)

    2020年初頭から始まった新型コロナウィルスは、現代社会の脆弱性や現代社会が持ち合わせていた問題点・弱点を再認識させられるような事件となりました。2020年以降の経済停滞はほぼ確定事項として多くの国々で論じられ、経済が元の水準に戻るのに2~3年を有するといわれています。

    さらに、新型コロナウィルスは終息宣言が出されたわけでもなく、再燃と抑制を繰り返す可能性は十分にある状況です。したがって、この2~3年というスケジュールも手放しで信用できるものではありません。現代社会の変容が求められているといっても過言ではないでしょう。

    こうした中で、経済停滞や産業政策、失業や貧困に関する対応が、世界各国に求められています。例えばスペインなどの南欧では、ベーシックインカムの議論が進んでおり、実施に対してかなり積極的な意見が出てきていることは見逃せません。

    一方、もしコロナウイルスによる経済への悪影響をコントロールしきれず、1929年の世界恐慌のような全世界的規模の深刻な経済停滞を引き起こしてしまうと、その後世界規模の大戦争を招く危険すらあるということは、歴史が教えている通りです。

    こうした「危機的状況」において、日本はどのように対応することができるのでしょうか。より具体的で抜本的な対策が必要であろうと思います。

    深刻な経済停滞に対して、各国政府が取り得る基本的な経済政策は主に、減税・現金給付・財政出動による公共投資の3つであるといわれています。例えば、1929年の世界恐慌の際に高橋是清が行った積極的な財政出動は、日本経済を世界恐慌の波からいち早く救い出したとして高く評価されています。

    もちろん、伝統的な3つの政策も重要です。ですが、私は今回は新型コロナウィルスによる深刻な経済停滞に対してはさらに一歩踏み込んだ経済政策が必要だと考えています。その政策をベーシックジョブと呼びます。この記事ではベーシックジョブの可能性について考えていきたいと思います。

    ベーシックジョブとは何か

    ベーシックジョブは現代的貨幣理論(Modern Money Theory, MMT)によって提案されている雇用保障計画(Job Guarantee Program, JGP)の改良版です。まずは、JGPについて簡単に説明しましょう。

    政府による最後の雇い手(Employer of Last Resort, ELR)とも呼ばれるJGPは、働く能力と意思のある全ての人に政府が一定の賃金・社会保障の権利による仕事を提供するものです。JGPの財源は税金ではなく、政府の赤字支出で賄われます。不況期には赤字が増大し景気の下支えをし、好況時には赤字は減少するため、景気の自動安定化(ビルトインスタビライザー)としての機能があります。

    一般的なマクロ経済学では失業をゼロにする完全雇用を実現することはできないと考えられています。財政赤字を増大させると完全雇用に達する前にインフレが激しくなってしまうからです。しかし、JGPは働けていない人に仕事を提供し、供給力を強化するため財政赤字を出してもインフレにはならないとされています。

    このJGPはアメリカで生まれた議論であり、日本の今の仕組みには相性が悪い点も多いため、この議論そのままに輸入してくることは難しいでしょう。例えば、アメリカでは仕事の提供をNPOやNGOが担うことを想定していますが、日本では非営利団体で働くことが一般化していませんし、地域での雇用は中小企業が担っていることが多く、雇用の環境が大きく違います。そのため、このJGPをそのまま導入することは、むしろ混乱を招くだけといえるかもしれません。

    そこで、JGPの改良日本版ともいえるベーシックジョブを私は提案しています。ベーシックジョブは、JGPに日本の雇用システムの特徴であるキャリアラダーの側面を、強く打ち出したものです。具体的には政府の赤字支出によって働きたい人全てに仕事を提供しつつ、キャリアアップのための資格取得の機会を保障し、賃金の継続的な上昇につなげる仕組みまで整備するというものです。人々の生活の可能性を引き出すキャリアラダーを内蔵したベーシックジョブを政府が構築していくことは、これまでの雇用や仕事観を大きく変容させ、より個々人が積極的に社会に貢献できるものとなるでしょう。

    政府が雇用を作ると聞くと、社会主義的なものを思い浮かべる人も多いかもしれません。コロナ対策として韓国政府が発表した韓国版ニューディール政策やアメリカのオカシオ・コルテス議員の発表したグリーンニューディール 政策などを思い浮かべる人も多いでしょう。実際に、JGPを主張するランダル・レイ氏も、ニューディールなどの政策を比較対象に挙げています。

    しかし、ベーシックジョブは今までの雇用対策とは異なり、一時的な雇用政策ではなく、継続性をもった政策です。ベーシックジョブは、景気の安定化を実現するだけでなく、その設計次第では経済全体の生産性を高めることになるため、今までの公共政策にありがちだった「お金を使う」政策から、より積極的な「お金を生み出す」政策になるポテンシャルを持っているのです。この特徴については、後編でまとめていますので、ぜひ参照してください。

    日本においては、新型コロナウィルスが蔓延するまで、失業率は過去最低でした。しかし、賃金の上昇が伸び悩み、消費が停滞し、なかなか力強い経済成長を実現することができないでいました。賃金の継続的な上昇を実現し、現代日本が抱えている様々な社会問題に対しての具体的な解決案としても、ベーシックジョブは有益でしょう。

    ベーシックジョブでは、働く意思と能力があるすべての国民に一定額の収入を得られる職と社会保障を提供します。これによって賃金上昇がはかられ、低所得者への支援だけでなく、新自由主義的政策によって失われつつある中間層の再生にも役立つことが期待されます。コロナウイルス対策にとどまらず、将来の経済を安定化させる政策としてベーシックジョブを検討するべきです。

    ベーシックインカムと何が違うのか

    冒頭でも触れましたが、現在ヨーロッパを中心にベーシックインカムの考え方が広まりつつあります。これは、基本的に人権を最低限保証する仕組みとして、市民に最低限のお金を配っていくという考え方です。

    ベーシックインカムは生活保護とは異なる生活保障システムです。ですが、ベーシックインカムの基本的な視点は、現在様々に細分化されている社会保障の仕組みを、一本に集約しスリム化するという目的もあります。

    一本化することで過剰な支援を減らす分、必要な人への支援を強化できるという考え方もあります。しかし、現段階でも不十分といわれている医療・介護・障がい者福祉などの社会保障の仕組みをさらに先細りさせるという反対意見も根強くあります。

    もし、現在必要な人たちに対する給付額を減らしてしまえば、今までの生活が脅かされる人が増えることを意味します。それはそのまま社会の不安定要因となることは間違いありません。この不安定さは大きな社会リスクとなり得ます。今回のコロナ騒動において、シンガポールやアメリカの中枢都市でそうした社会リスクが顕在化していることは見逃せないでしょう。

    確かに、お金によって救われるものがあるのは事実ですが、人はそれだけで生きていくことはできません。お金を与えられれば幸せになるかといえば、それだけではないはず。ベーシックジョブは仕事の提供を基本としているため、社会への参加の機会が担保されます。しかも、ベーシックジョブはジョブキャリアの入り口を保障し、キャリアアップのための機会と賃金アップを保障する仕組みですから、公的な役割のある医療・介護・福祉・保育・教育といった分野で働く人たちを増やし、社会保障と教育を充実させる機能も持っています。

    そして、国民の活動に対して、国が支えられるものは仕事になるというのが、ベーシックジョブの根幹に置かれている考え方といえるでしょう。どのような仕事であれ、結果として何かしらの生産物を生み出すことにつながります。この生産物をうまく活用していくことによって、より多くの可能性と経済発展が見込めるという形で、単にお金を配るだけではない、拡張性のある議論ができるようになります。

    ベーシックインカムは、結局、お金を配る仕組みです。一方でベーシックジョブは、仕事の対価を国家が保証することで、より新しい選択を個人も国家もできるようになるかもしれません。ベーシックジョブは、より未来に対して開かれた政策といえるのではないでしょうか。

    今枝宗一郎(いまえだ・そういちろう)

    衆議院議員(自由民主党、3期目)。医師。

    名古屋大学医学部卒業後、医師として、へき地医療や救急医療、在宅医療に従事。大前研一氏創設の「一新塾」を経て、自民党の公募に応募、第46回衆院選に最年少(28歳)で当選。2017年には史上最年少の33歳で財務政務官に就任。新型コロナウイルス対策では自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部幹事長を務める。

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