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「完全自粛」では社会経済が破綻する!自民党の医療現場出身議員達がまとめた「5割自粛」プランの中身=今枝宗一郎(衆議院議員、医師、新型コロナウイルス対策医療系議員団本部幹事長)
2020年初頭から始まった新型コロナウイルスに関する動きは、各国の国家運営に非常に大きな影響を与えてきました。
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日本でも政府は矢継ぎ早に対策を展開していて、緊急事態宣言に続いて第1次補正予算を成立させ、史上初めて民間企業へ公金を給付する「持続化給付金」を実現、その後もすぐ第2次補正予算を閣議決定するなど包括的に対応を進めています。
今後の日本はどうなっていくのでしょうか。
医療現場出身の議員たちで構成する私たち自民党「新型コロナウイルス対策医療系議員団本部」は、外出自粛ではなく、「接触機会5割で『命』も『暮らし』も守る新出口戦略案」を作成しました。
「新出口戦略案」は、新型コロナ対策を進めて「国民の生命そのもの」を守るだけでなく「国民の暮らし」、すなわち経済も守るという積極的な戦略案として策定されました。
キーワードは、「短期・中期・長期戦略」とそこから見えてくる「接触機会5割」の2つです。私たちの新出口戦略案について説明したいと思います。
「医療崩壊」だけは絶対に防がなければならない
短期戦略のキーポイントは、「どのような状況になったら緊急事態宣言が解除できるか・解除の基準」です。
新出口戦略案を策定した後に緊急事態が解除され、この記事が出る頃には皆さんも既に基準もご存じでしょうから、概要だけ書かせて頂きます。
短期戦略、つまり、緊急事態宣言の解除の条件は新規感染報告者数と医療のひっ迫状況の2つが基準となります。
医療を指標にしている理由ですが、医療機関を優遇しているわけではありません。今回の新型コロナウイルスは、医療崩壊をしなければ死亡率はそこまで高くないので、医療崩壊を防ぐことが国民の命を守る事に直結するからです。
緊急事態宣言解除の条件は、
① 直近7日間の新規感染報告者数が、その前の7日間のものより少ない
② 直近7日間の新規感染報告者が、人口10万人当たり0.5人を下回る
③ 新型コロナウイルス対応病床利用率が6割を下回る
④集中治療室病床利用率が4割を下回る
の4点です。
ただし、地域によって人的・物的医療資源の状況が大きく異なるので、都道府県ごとに医療現場と緊密に連携しながら数値目標を調整すべきです。
「完全自粛」では日本経済が崩壊する
中期戦略としては、緊急事態宣言解除後に、「国民の命」と「国民の暮らし」の両方を守りつつ、コロナとの長い戦いに対応することがポイントになると考えられます。
「国民の暮らし」すなわち経済活動をある程度維持しながら、同時に感染拡大を阻止していく対策が求められます。
ここでのキーワードは、外出の「完全自粛」や「8割削減」ではなく、「接触機会5割」です。
今までの日常と比べて「接触機会を5割にする」ことで、「国民の命」と「国民の暮らし」の両方が守れると考えています。
この「接触機会5割」という提言には2つの前提があります。
1つが「実効再生産数」を1以下とすること。
もう1つが、この実効再生産数を抑えつつ効率よく経済を活性化させる方策を実施するというものです。
この実行再生産数(以下、R値)とは、1人の感染者が、いったい何人に感染させてしまうのかという指数です。
つまり、この実行再生産数が0.5であれば、仮に100人の感染者が出たとしても、そこから広がる新しい感染者は50人、その次は25人といった具合に、感染を抑え込むことができます。
しかし、仮にこの実行再生産数が1.5だった場合、100人の感染者が出ると、そこから広がる新しい感染者は150人、その次は225人といった具合に、爆発的に感染が広まっていき、まさにパンデミックという状況が生まれてしまいます。
事実、日本の場合信頼できる数値の中では2020年3月15~25日に実効再生産数の最高値「2」を記録しています。その後の緊急事態宣言という強い政策がなければ市民生活に大混乱が生じていた可能性は否定できません。
「接触機会5割」というのは、まさにこの3月15~25日のR値=2という数値を受けて考え出されたものです。
感染者を増やさないR値=1以下を実現させるためには、3月15~25日のR値=2を半分にすればいい、つまり接触を「通常時の半分」にすればいいという考え方です。
逆にいえば、3月15~25日の半分ぐらいの接触機会を経済活動維持のために許容しても、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことができる、という意味でもあります。
外出しても「接触機会5割」にとどめる方策が必要
この「接触機会5割」において、大きな意味を持つのは「接触率」です。「人の外出を5割にする」という意図はありません。
確かに、テレワークを進めることで自然と外出が減る、といった部分は積極的に推進しますが、そもそも人が外で活動することを禁じることは、それだけで経済に大きなダメージを与えます。それでは社会経済活動の発展を著しく阻害してしまうことになります。
そのため、「外出機械の制限は無理のない範囲とし、外出機会当たりの接触率を下げる」ことで、この「接触機会5割」を達成する方策を考えています。
具体的には「3密回避の継続」「手洗いうがいなどの一般的な感染予防を徹底、目・口・鼻などを触らない」「こまめな換気」「マスクの着用」などがこれにあたります。
2m身体的距離を空けることについては、社会経済に与える影響が大き過ぎるため、接触機会5割となる範囲で、絶対視せずとも良いのではないかと考えています。
都道府県をさらに細かく分けた地域ごとに、1~2週間ごとにR値や感染の広がりを天気予報などと同様に地域を分けて分かりやすく公表していくことで、皆様にも「蒸し暑いけど薄いマスクで頑張ってみよう」「三密はしっかり避けよう」と思っていただけるのではないかと考えます。
「テレワークの推進」で感染対策と経済活動を両立させる
ほかにも「業種別の新しい生活様式ガイドラインの緩和版策定」「勤務体制の見直し」「学校の再開」「渡航制限」などの対策もまとめています。
特に「勤務体制の見直し」について、2月以降非常に注目されているテレワーク、自宅勤務については可能な職種では積極的に進めるべきだと考えています。
テレワークは、会社という密になりやすい状況だけでなく、都市の過密による生産性低下の解消にも貢献するという一石二鳥以上の仕組みです。
うまく活用して経済発展できれば、インターネットの可能性をさらに広げ投資のバリエーションを増やすことにもなるため、力を入れていきたいと考えています。
社会活動再開には「抗体検査」が必要だ
「接触5割」のほかにも中期計画の中では様々な施策が提案しました。例えば、「ハイリスク者の保護」、「抗体検査の拡充」です。
事態の深刻化を防ぎながら、更に暮らしや社会経済を開放する手立てを進めなければなりません。
新型コロナウイルス感染症は、50歳未満の致命率が1%未満である一方、80歳以上の高齢者の致命率は13.0~20.2%と報告されています。
高齢者や基礎疾患がある方の感染を防ぐことは非常に重要です。深刻な状況を回避するだけでなく、重症化する患者数を抑えることとなり、結果的に医療崩壊のリスクを下げることができます。
「中和抗体」の検査も今後の円滑な社会活動には必要です。
抗体検査は、無症状で感染の自覚がないままに治癒した人を含め、これまで国民がどれだけ感染したかが分かるデータであり、出口戦略における重要な指標となります。
抗体は複数ありますが、特に感染そのものを防止する「中和抗体」を保有していれば、感染しない確率は非常に高くなります。定期的に大規模な疫学調査を行い、地域内の抗体保有率がわかれば、「リスクが低い」と判断された地域から安心して経済活動の再開などを進めていくことができるでしょう。
「粗利補償」「給付」で「経済死」を防げ
他にも、「医療提供体制を充実し、ITツールを活用した感染拡大防止策を導入する」「PCR検査体制を拡充する」といった対策をまとめています。
「PCR検査・抗原検査は、医師や保健所が必要と判断したものは全例速やかに検査可能とする体制を整える」「早期診断早期治療を進められる」ように進めます。
そして、この項目の最後に、経済的支援を書きました。
今後経済活動は徐々に再開されていきますが、その間に損失をこうむる業種が生まれる可能性があり、そこには、粗利補償や減税といった経済支援、貧困問題が関連する場合は個人への経済的支援も考えねばなりません。
これら経済支援のみならず自殺対策として、メンタルヘルス対策推進も重要です。
「第2波襲来」にはどう対応するのか
新型コロナウイルスと暮らしていく以上、何かの拍子に再び感染拡大・緊急事態宣言の再宣言を行う可能性は十分にあるでしょう。
これについては、「地域ごとに段階的な社会経済活動の再開基準を策定する」という提言の中で、Phase0~3という4つのカテゴリーに分けることで対応したいと考えています。
ここでは、再び実効再生産数と医療提供体制について注目しています。緊急事態再宣言前に注意喚起を行うのがPhase2、ウイルスが周りにいない状態と判断されるので行動をもっと緩和して良い段階をPhase0としています。
それでも、感染拡大が防げない場合には、緊急事態宣言の再宣言という対応になってしまいます。
新型コロナウイルスにおける緊急事態とは、「医療崩壊が危惧されること」にあります。医療崩壊を防げない場合、新型コロナウイルスへの対応に医療資源が集中し、本来は助かったはずの事故やほかの病気で亡くなる患者が増えてしまう可能性も否定できません。
こうなってしまっては、新型コロナウイルスを抑えても、市民生活の安心と安全が確保できなくなり、実質新型コロナウイルスに対して負けてしまっているといっても過言ではないでしょう。医療崩壊の可能性がある場合は、緊急事態の再宣言を検討する必要があると考えています。
「ピンチをチャンスに」コロナ禍を日本大変革のきっかけに
長期戦略の要はやはり、薬、ワクチンの開発です。
ワクチンが完成し、国民の大多数がそのワクチンを接種することによって、新型コロナウイルスを終息させることが可能になります。
しかし、このワクチンの開発には不確実性も大きいことから、感染爆発を抑えながらの集団免疫獲得も考えておかねばなりません。
現在の研究では国民の6割が感染することが集団免疫獲得には必要と考えられていますが、もっと低い割合でも可能かもしれません。
そのほか、我が国が再び大きく発展する為に、超長期の対策も考えねばなりません。
新型コロナウイルスだけでなく、日本の今の社会システムは感染症に対して大きなリスクがあるのではないかという懸念がもたれています。
東京一極集中に例を見るような極度の過密化の問題のほか、感染症そのものに強い国づくりとしての、地方への社会機能分散や地方創生、ITツールの大幅活用についてもより積極的に推進していきたいと思っています。
私たち自民党医療系議員は、命と医療現場、私たちの暮らしや社会経済を考え、「接触機会5割で『命』も『暮らし』も守る新出口戦略(案)」は短期・中期・長期戦略といったフェーズ分けをしつつ、最終的に新型コロナウイルスだけでなく感染症そのものに対する対応のガイドラインとなりうるよう、提言を取りまとめました。
また、経済活動だけでなく、社会全般にいかに安全と安心を提供していくかについて、より深く議論を進めていくための土台となればと思っています。
この提言を土台として、新型コロナウイルスに対する市民の健康と安全、そして何よりも安心を政府として提供していかなければと考えています。
今枝宗一郎(いまえだ・そういちろう)
衆議院議員(自由民主党、3期目)。医師。
名古屋大学医学部卒業後、医師として、へき地医療や救急医療、在宅医療に従事。大前研一氏創設の「一新塾」を経て、自民党の公募に応募、第46回衆院選に最年少(28歳)で当選。2017年には史上最年少の33歳で財務政務官に就任。新型コロナウイルス対策では自民党の新型コロナウイルス対策医療系議員団本部幹事長を務める。