教養・歴史

コロナと闘っているのは医師だけじゃない!「京大」が「薬剤師」のために本気を出した理由【MMJ・毎日メディカルジャーナル】

岡田浩(おかだ・ひろし) 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系健康情報学特定講師
岡田浩(おかだ・ひろし) 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系健康情報学特定講師

新型コロナウイルスが社会を大きく揺るがしている。

京都大学大学院医学研究科健康情報学研究室の岡田浩特定講師らは4月、薬局で働く薬剤師に向けて「COVID-19 薬局で働く皆様へ」というサイト(https://www.kyotosph-pharmacy.com/covid-19)を立ち上げた。

副題は「コロナウイルス対策に役立つ情報まとめ」。

岡田特定講師に「Zoom(ズーム)」を使ったオンラインで尋ねた。

このままでは薬局でクラスターが発生する!

――サイトを始めた理由は

新型コロナウイルス感染症により3月中旬ごろから、北米や欧州でロックダウンが始まり、「日本も避けられない」と考えました。

当時、京都大学病院では海外旅行に出かけている研修医もおり、帰国者は4月1日以降、病院内に入れないよう感染防止策を進めていました。

これは病院で働く薬剤師も同じですが、市中の調剤薬局で働く薬剤師には情報が届きません。

薬局は忘れられているのではないか、そんな不安があったのです。

留学時代のカナダの研究仲間からは心配するメールが届きました。

海外の薬剤師会では「薬剤師は薬物治療の責任者だから感染してはならない。薬局にも感染防止対策が必要だ」など情報を発信していますが、日本ではありません。

薬局でクラスターが発生するのではないかと考え、自分たちで情報を発信していくことにしました。

――これが活動主体の京都大学SPH 薬局グループですね

はい。大学院の健康情報学教室の薬剤師を中心とするグループです。

私たちは「薬局」を研究対象にしています。これまでに、薬局薬剤師の患者への声かけによって血圧や血糖値が改善することを国内の臨床研究で示すなどの研究をやってきました。

今回のサイトには約40人が協力してくれています。私の教え子や、かつて講演を聴きにきてくれた方など薬剤師が中心ですが、看護師、医師の方もおられます。

――これまでに発信した内容は

海外の薬剤師会は「薬局では話すな」「電話で相談」「現金を扱うな」などの具体的アドバイスを集めた感染防止ガイドを作成していたので、これらを参考に何人かでアイデアを出し合いました。

最初に、ポスター、動画、リンク集をつくりました。ポスターは自由にダウンロードして薬局内に掲示してもらう狙いです。

「来局前に電話で相談」「電話で処方してもらえます」などの患者さん向けや、「こちらでお待ちください」「薬局内人数制限中」などの混雑防止を呼びかけるものもあります。

CDC(米国疾病予防管理センター)のリストを参考に、「定期的な清掃・消毒の実施」「支払いはカードなど現金以外を推奨」「患者向け雑誌や血圧計は片付ける」など10 項目の「薬局COVID-19 防御対策チェックリスト」もつくりました。

一方、薬剤師も自分が感染する不安を感じています。しかし、接触や飛沫による感染をどう防ぐかなど正しい感染予防法は伝わっていません。

患者さんに伝えるためにも、薬剤師がまず知らなければなりません。

そこで、感染症専門医に学ぶ感染予防対策の基礎などの動画を作成しました。若い人は通勤時間を使い動画を見ている人が多いので、1 本が5 ~ 10 分で字幕付き。

テーマは「専門医に聴く感染予防」「患者の不安に薬剤師としてどう向き合う」「薬局内の感染対策の工夫」など新型コロナ関連が約25本。

自粛で家に閉じこもりがちになる患者さんにアドバイスできるよう「フレイル予防の簡単体操」「身体のストレッチング」のほか、「オンライン服薬指導の流れ」などもあります。

信頼できる情報をどこが発信しているかが分かるよう、日本だけでなく海外のサイトも含めたリンク集や、外国人対応についても掲載しています。

海外諸国の対応を知るだけで、これから日本に起こる事態が予想できたので、タイムマシンにのったようでしたし、オンラインだから素早く展開できたのだと思います。

薬剤師にできることはたくさんある!

――これまでの反響は

1カ月で約6 万アクセスがありました。

鳥取の薬剤師会からは「全ての薬局でポスターをダウンロードしてもらい掲示します」とのメールがありました。

多くの薬局に関心をもってもらおうと「あなたの薬局の対策を教えてください」という投稿コーナーにも多くの取り組みが寄せられています。

かかりつけ薬局を持っているということは、患者さんが身体に不安があるからです。

私たちは「このような時期に薬局に来る必要はないですよと、患者さんに薬剤師から電話してほしい」と呼びかけていますが、ある薬剤師から「おそるおそる患者さんに電話したところ、とても感謝されました」とメールが届きました。

薬局薬剤師が患者さんにできることは、たくさんあるのです。

――今後、どんなことを発信していくか

長期化が見込まれるので、患者さんの不安を解消できる情報を発信していきます。

今日は簡単にできる料理をアップしました。

薬剤師の仕事は薬だけでなく、患者さん全体をみることで、これができる立場であることに多くの薬剤師に気づいてほしいです。

一方、医療従事者のバーンアウトにも対処しなければなりません。

新型コロナウイルス対策だけにとどまらず、より幅広く発信していきます。

――今後への提言は

地域医療のなかで、薬局薬剤師の占める役割は実はとても大きいです。しかし、意欲的な人が病院薬剤師を選ぶのか、学会では病院薬剤師の発表が目立ちます。

病院薬剤師が務まれば調剤薬局はできると考えている人も多いのでしょう。

でも、私は病院薬剤師と薬局薬剤師には違う専門性があると考えます。病院は急性期の付き合いですが、長い付き合いは地域の薬局です。

患者さんの情報がないなら、普段の生活を聞くべきです。

「運動は好きか」「近くに頼りになる親戚がいるか」。そのうえで、薬について伝えましょう。

コロナの経験で、このように考える薬剤師が増えることを期待します。

このサイトが多くの人を巻き込んで、よりよい未来をつくる手段になってくれればと願っています。

(「MMJ」2020年6月号より)

岡田浩(おかだ・ひろし) 京都大学大学院医学研究科社会健康医学系健康情報学特任講師

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