新型コロナ 高温多湿でも流行か 集団免疫獲得まで険しい道のり=野村広之進/都築伸弥
短期間で沈静化に成功したSARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)に対し、今回の新型コロナウイルスは終息まで長期化すると見込まれる。その理由は二つある。
一つ目は、このウイルスが不顕性感染を起こす点である。不顕性感染とは感染しても症状が出ないことで、無意識に周囲の人へ感染させてしまうリスクが高い。中国の2020年2月末の累計感染者は約8万人と公表されていたが、これとは別に無症状患者が当時4万3000人いたと後に報告された。無症状患者からの感染が、パンデミック(大流行)の最大の要因であろう。
二つ目は、新型コロナは通常ウイルスが苦手とする高温多湿な環境でも、一定以上の感染力を維持できる点である。図1の温帯地域における感染者の増え方と、図2の高温多湿な熱帯地域における感染者の増え方を比べてみると、グラフの傾きはほとんど変わらない。今から夏を迎える北半球でも感染拡大はまだ続く可能性が高いだろう。
日本は獲得まで2年弱
当初の対応策は「封じ込め」であったが、世界中で感染拡大は続いており、完全な封じ込めはほぼ不可能になった。特に新興国やこれから冬を迎える南半球に拡大した意味は大きい。仮に先進国で終息に成功しても、新興国や南半球の国と交流を再開すれば、再びウイルスが侵入し、再燃は避けられないからだ。今後は、世界全体でウイルスとの共生を模索する必要がある。その共生方法の一つが集団免疫である。これは集団の中の一定割合が一度ウイルスに感染して免疫を獲得すれば、それ以上の感染は広がらず、終息するという考え方である。新型コロナの場合、集団免疫の獲得には人口の約5割が免疫を獲得する必要がある。
図3は、日本を基準として主要先進国が集団免疫(人口の50%が免疫を獲得)を得るまでに必要な期間を示している。しかし現時点の致死率(4月19日時点で6・9%)を考慮すれば多くの犠牲が予想される。この議論を現実化するためには、各国で医療キャパシティーの増強、治療薬やワクチン開発に一定のめどが立つことが前提条件になる。集団免疫獲得までの道のりは長い。
全世界の感染者は約245万人(4月22日時点)と発表されているが、実際には最大で50~85倍程度(全人口の最大2・4~4%に相当)存在する可能性があると、ドイツや米国は指摘している。これは現時点で感染中の人しか検出できないPCR検査に代わり、過去に感染した人も検出できる抗体検査を用いた結果だ。仮にこの結果が正しければ、発表よりはるかに多くの人が既に免疫を持っていることになる。欧米ではこれらの免疫保有者を経済活動に戻そうとする計画がある。回復した患者には免疫(抗体)が存在するため、再度感染し、重症化するリスクは低いと思われるからだ。
しかし、この議論には二つのハードルが存在する。一つ目は、抗体検査の精度である。検査の精度には「感度」と「特異度」の二つの要素がある。「感度」は抗体保有者を抗体保有者と判断できる割合、「特異度」は抗体非保有者を抗体保有者と誤診しない割合を指す。現在の抗体検査ではこの感度が80~90%程度であり、検査で抗体が確認されなくても、実際には抗体を持っている場合も出てくる。精度に問題がある点はPCR検査と同じである。
二つ目は、免疫の量・持続期間・個人差である。新型コロナに対する免疫が仮に検出されても、どの程度の免疫量(抗体量)があれば感染や重症化を防げるか、また免疫の効果はどの程度の期間持続するかが、現時点では不透明なのだ。さらに、一度感染していてもある人には抗体量が十分存在し、別の人には抗体量が十分でない可能性もあり、まだまだ課題は多い。実際、WHOは4月25日に「一度感染しても再感染しない保証はない」と警鐘を鳴らしている。
最大の脅威は変異株
世界中で感染が拡大した今、最大の脅威は遺伝子が変異した変異株の出現だ。変異したウイルスには獲得した免疫や開発されたワクチンが効かない可能性があるからだ。4月19日時点で、新型コロナのゲノム情報は4431サンプルのデータが蓄積されている。人への感染に重要な「Sたんぱく」という部分にだけ注目しても現状では遺伝子全体で最大23カ所に変異を持った株の存在がわかっている。感染が中国国内に広がり始めた当初、変異は数カ所程度だったが、欧米まで感染が拡大する頃には大きく変異していることがわかる。この変異株と欧州の高い致死率との因果関係が注目されている。
(野村広之進・みずほ証券シニアアナリスト)
(都築伸弥・みずほ証券アナリスト)