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吉村府知事の「大阪モデル」がうらやましい?!「政府」と「東京都」が「基本的なデータ」さえ収集できない理由=鈴木哲夫(ジャーナリスト)

5月5日に「大阪モデル」を発表した吉村洋文府知事
5月5日に「大阪モデル」を発表した吉村洋文府知事

コロナ禍からの〝出口戦略〞の模索が始まっている。

重要になるのは感染状況を見極めるための正確なデータだ。ところが、その収集に〝縦割り行政〞が壁となっているというのだ。

地域によっては宣言解除の動きも出ている。求められる為政者の対応は何か。

あいまいな数字しか出せない安倍首相・・・

「一時は1日当たり700名近くまで増加した全国の感染者数は、3分の1まで減少しました」「特に警戒が必要な13都道府県の皆さんには引き続き極力8割の接触回避のためのご協力をお願いします」

5月4日。緊急事態宣言の延長を発表した安倍晋三首相は記者会見でこのように成果に胸をはった。

注目しておいてほしいのは、数字にまつわる部分である。

この会見を受け、5日に大阪府の吉村洋文知事が記者会見した。

内容はなんと大阪府は独自に基準を設け、それをクリアすれば自粛要請などを解除していくというものだった。

吉村知事が明らかにしたのは次のような指標と数字だ。

まずは経路不明の感染者が1日10人未満であること。多くの陽性者が出ても、全員の経路が分かっていたら対応が可能だ。逆に陽性者が少なくても、経路が不明なら対応が難しい。

次に陽性率である。PCR検査を受けた人のうち、陽性者がどれだけいるかという割合だ。その日の陽性者が数人だったとしても、検査数がわずかなら陽性率は高くなるが、それは感染が市中に広がっていることを意味する。

これも重要な指標で大阪府は7%未満でなければならないとした。

そして三つ目は重症患者を受け入れる病床の使用率だ。これは常に余裕がなければならないが、大阪府は60%未満であるかどうかとした。

会見で吉村知事は「10人未満」「7%未満」「60%未満」などの基準を、7日間連続で満たせば自粛要請は段階的に解除する。ただし、解除後もこの数値を超えれば改めて対策を要請するという内容を説明したのだった。

吉村氏は独自に専門家会議で議論をして決定し、これを「大阪モデル」と名付けた。「自粛要請の入り口と出口を示すことができ、とても分かりやすい指標になった」とも語った。

安倍氏と大阪府の数字の質の差は一目瞭然だろう。

大阪府の数字は自粛で厳しい環境にある住民にとっては、新型コロナウイルスの感染状況が具体的に実感として分かる。収束に向けた明確な目標値にもなる。

政府と東京都のデータ収集を「保健所」が阻止?

「政府のメッセージの中で決定的に欠けているのはデータ」

こう嘆くのは、政府の経済対策を不十分と批判する自民党若手議員だが、さらにこう続ける。

「ドイツなど欧州では、漠然とした数字ではなく、こうしたさまざまな切り口のデータや数字を毎日更新し、国民に示すから理解しやすい。目標も立てやすい。大阪がいち早くこの数字を出したことは評価できる」

「東京モデル」を模索する小池都知事
「東京モデル」を模索する小池都知事

実は大阪府だけでなく、東京都も小池百合子知事が「東京モデル」を出すことを検討していた。

ところが、この期に及んでも国の縦割り行政が、壁になっているというのだ。

その一因は保健所を取り巻く環境だという。

「都は緊急事態宣言延長のタイミングで、大阪府と同様に出口へのロードマップを示そうとしていた。でも、基本となるデータを十分にそろえて分析できなかったのです」(都幹部)

ネックになっているのが保健所との連携だという。

保健所は、地域保健法で、政令市や中核市、東京23区の特別区では、それぞれが独自に設置すると定めている。これ以外の市町村は都道府県が設ける。

つまり東京23区の保健所は、東京都ではなく国の直系ということだ。

都内には31保健所(出張所を除く)が存在するが、うち都が設置して管理下にあるのはわずか6である。

すると、何が起きるか。都幹部が解説してくれた。

「都と23区の間では独自に人事交流し、都の職員が保健所長になるケースもあります。しかし、実際には23 区の保健所にしてみれば国が直系の上司で、そっちを向いている。都の言うことを聞く必要はありません」

では、今回はどうか。

「PCR検査など国、厚生労働省が最初に方針を出し、保健所が差配する仕組みになりました。そうなると、都が独自にPCR検査の体制を考えても、国の指示に従う23区の保健所とは、どうしてもズレてしまう。保健所は勝手に都の傘下へ入り、いろんな工夫をやるわけにもいかないのです」

大きな問題はデータが十分に上がってこないことだ。別の都幹部が明かす。

「組織が縦割りになっているので、23区の保健所から都へコロナに関するデータや数字がなかなか入ってこない。オンラインで同時に共有するなどの連携が、うまくいかないのです」

例えば、都は4月30日にようやく都内の新型コロナの自宅療養者の数を発表した。

自宅療養者数は病院の病床の空き具合を見て入院させる人を見極め、軽症者数を把握するにも重要なデータだ。

これは大阪府も参考にしている。

だが、東京都はこのデータが集約できなかったという。

前出の都幹部が自宅療養者数を把握した経緯を語る。

「保健所は電話を受け、自宅療養を指示した数などを把握しているはずだが、何も言ってこない。別に都の管轄ではないから『言う必要もない』ということなんでしょう。都から聞くと『忙しいから集計できていない』と言われる。もちろん協力的な保健所もありましたが。そこで今回は『もう待てない』と都が病院などに直接電話して自力で調べるなどしました」

都も今後、保健所の協力をさらに粘り強く求め、独自に専門医の意見も聞きながら、5月中旬には「東京モデル」の数値を作成し、明らかにする方針だ。

それにしても今回の騒動では政府の対応がことごとく後手後手に回ってきたが、保健所問題は縦割り組織の弊害も浮き彫りにしたといえる。

新型コロナほどの有事に対応するには柔軟な組織運用は必達目標だ。

政府は地方自治体の奮闘に異議を唱えるより、「国の直系保健所は都道府県の傘下に入り、連携して効率的に動け!」と号令をかけることの方が先ではないか。

これを改めるには、安倍首相による法律を超えた政治判断と指示しかない。

鈴木哲夫(すずき・てつお)

1958年生まれ。ジャーナリスト。テレビ西日本、フジテレビ政治部、日本BS放送報道局長などを経てフリー。豊富な政治家人脈で永田町の舞台裏を描く。テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活躍。近著『戦争を知っている最後の政治家 中曽根康弘の言葉』『石破茂の「頭の中」』

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