国際・政治 サンデー毎日Online
「パンデミックを生きる指針」で注目される京大准教授が「自粛しないこと」を進めるワケ
岩波書店のウェブサイトに掲載された記事「パンデミックを生きる指針―歴史研究のアプローチ」が大評判だ。
筆者は京都大人文科学研究所の藤原辰史准教授(43、農業史)。
4月2日に公開すると1週間に30万件超のアクセスがあり、SNSに「必読の文章」「文系の神髄ここにあり」などのコメントが並ぶ。
藤原氏は新型コロナウイルスと酷似する例として、20世紀初頭に大流行したスペイン風邪を挙げる。
3回の波があり、第2派は第1波より致死率が高かったという。
〈なぜ、一回の波でこのパンデミックが終わると政治家やマスコミが考えるのか私にはわからない。ちょっと現代史を勉強すれば分かる通り、来年の東京五輪が開催できる保証はどこにもない〉(同記事)
藤原氏に電話取材をした。安倍晋三首相が「東京五輪を新型コロナに打ち勝った大会にしよう」と勇ましく語ったことに、藤原氏はあきれて言う。
「楽観と空威張りは第一次大戦時の(ドイツ皇帝)ヴィルヘルム2世や第二次大戦時の日本の大本営と変わりません。今の政府のやり方は、(日本陸軍の) 牟田口(廉也)中将の無謀な計画が多数の兵士を死に追いやったインパール作戦を想起します」
藤原氏は新型コロナへ立ち向かう姿勢として「自粛しないこと」を掲げる。
誤解されそうだが、家庭や組織の理不尽な要求から、「人々が逃れたり異議を申し立てることを自粛しないことです」。
トランプ、マクロン両大統領が盛んに口にする「戦争状態」は、異論を弾圧するのに効果的な言葉であり、警戒すべきだという。
藤原氏はこれまで『給食の歴史』(岩波新書)や『戦争と農業』(インターナショナル新書)などの著作を通じて独自の視点で人類史を俯瞰かんしてきた。
「楽観論に流されず、一人一人が自分で考えることを文科系の立場から応援できれば」
(粟野仁雄)